貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
癒される
 ソファに座らされた真梨子が譲の顔を見ると、彼は口元に人差し指を立てた。そしてポケットから手に持っていたスマホを置くと、スピーカーのボタンを押す。

『……真梨子さんは周りの友達にあなたの文句を言われても、庇い続けたそうです。あなたを愛していたからそばにいて、あなたと仲良くしたいからあなたの意見を受け入れた。じゃああなたは真梨子さんのために何をしましたか? 子どもが欲しいと願う真梨子さんの気持ちを、あなたはどう受け止めたんですか? 一緒に悩みましたか? 彼女の気持ちに寄り添いましたか?』

 真梨子がハッとして譲の顔を見ると、彼はただ頷いた。これは今現在バーで交わされている会話なんだ。

 真梨子は静かに耳を澄ます。その隣に譲が腰を下ろした。

『でも子どもがいたら今のように仕事や、こうして夜に飲みに行ったり、好きな買い物だって出来なくなる。今の二人の穏やかな生活が……』
『それは真梨子さんが望んだものですか?』
『えっ……』
『真梨子さんが仕事を続けたいと言ったんですか? 飲みに行きたいと言いましたか? 欲しいものがたくさんあると言いましたか? 好きなことをして穏やかに生活したいのはあなたの希望でしょ? それこそあなたの意見を押し付けてる証拠だわ』

 まるで自分の心の声を聞いているようだった。涙と嗚咽が漏れそうになり、慌てて口を押さえる。譲の手が真梨子が頭を優しく撫でていく。
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