龍神さまのいるところ

第8話

「池の歴史については、誰かに聞いた方が早いんじゃないの?」

 つい漏らしてしまった言葉に、ハッとする。

「誰に聞けばいいのかな?」

「さぁ……」

 彼女は口をつぐみ、グッと黙ったままうつむいてしまった。

その横顔に、なぜかまた罪悪感を覚える。

「だとしても、この池は自然発生的な池の方じゃないのかな」

 そんなことを言ってみたけれども、なんの反応もなかった。

いずれにせよ、俺に出来るのはここまでだ。

「そうかもね、ありがとう」

 それが本音なのか、フェイクなのかは分からないけど、俺にもこれ以上踏み込めないし、踏み込む気もない。

自分のことは自分で片付けてくれ。

俺に頼られても何も出来ないし、そもそも頼られる理由もない。

もっと他にいるだろ。

彼女が話しかけたり、相談したりする相手は、他にもいたしな。

きっとその人に相談した方が、何もかも上手くいく。

彼女も別に平気そうだし、もういいだろ。

 下校時刻が近づいていた。

彼女は演劇部の方へ戻り、俺も部室へ戻る。

今日撮影したデータをパソコンへ送り、USBにバックアップをとったらお終いだ。

他のみんなも続々と戻って来ている。

それでたわいのない話しをしてから、一緒に帰るのがいつもの流れだ。

俺はそんな変わらない、いつもの風景に安心する。

間違いのない、正しい姿だ。

扉をノックする音が聞こえて、それは遠慮がちに開かれた。

「あの……。圭吾って、いる?」

 舞香が姿を現した瞬間、そこにいた写真部員、全員が振り返った。

彼女の赤らんだ頬のせいで、平和だった空間に突如として不穏な空気が流れる。

「あっ、どうぞ! こっちに座ってください!」

「圭吾、お前もう用事終わってる?」

「帰るなら、先帰っていいぞ」

「なんだよ、お前ばっかずるくない?」

 なぜ俺が山本に首を絞められる? 

だからそんなんじゃないっての!

「あー、スマホ動画の編集? それはまた明日にでも……」

「ううん。ちょっと他にも、聞きたいこともあって……」

 体が硬直する。

女の子の方からこんな風に誘われるのは、生まれて初めてだ。

「一緒に帰れるかな」

「い、いいけど別に……。あーじゃあ、片付けるね」

 とたんに心臓が騒ぎ始める。

待て。

一緒に帰っちゃダメだろ。

相手は得体の知れないバケモノだぞ。

さっき自分でも見たじゃないか。

怪しげな言動を。

そう簡単に騙されてちゃダメだ。

鞄を持つ手が震えている。

ニヤニヤしながらこっちを見てくる、部員たちの視線が痛い。

「じゃ、行こっか」

 部室の扉が閉まったとたん、中から歓声が上がった。

本当に本当にやめて欲しい。

困るじゃないか、俺が。
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