龍神さまのいるところ

第6話

「だからさ、君たち不用心すぎない?」

「何しに来た」

「いや、撮影ですけど」

 ハクに向かってレンズを絞る。

「えー。どうせなら、私も一緒に写してよ」

 彼女は体をグッと前に屈めた。

そのレンズに向かって、流行のサインを手で形作る。

ハクが呆れてそれを振り返った瞬間、シャッターを切った。

「撮れた?」

 カメラの画面に、彼女が顔を寄せる。

その近さにちょっとびっくりする。

「あー、やっぱり無理なんだー。残念」

 保存された画像データには、自然な笑顔の彼女しか写っていない。

じゃあやっぱり、あの白銀の龍にレンズを向けても、無駄だったんだな。

「あの場所で何があった」

「あの場所って?」

 ここからは近くにあの池が見えた。

俺が一番最初に、女の子に化けたハクを見た池だ。

「私が飛び込んだ時……、あの教室でだ……」

「何もないよ。急に入ってきて、こっちがびっくりした」

 そうか。

荒木さん自身とはこの話しが出来なくても、ハクとは出来るんだ。

まぁ舞香もいるし、あんま深入りする気もないけど……。

「ハクはずっと気にしてるの。すっごく悔しがってて」

「……協力しろとは言わない。だが邪魔をするな」

「邪魔はしてない」

 多分だけど。

この小っこい頼りない龍も、いつかはあんなに大きくなるのかな。

「宝玉を見つけたらどうするの」

「……。天に帰る」

「なかったら帰れないわけ?」

「なかったら……。帰らない」

 舞香の手が、ハクに向かって伸びた。

その指先で龍の首元をなでる。

「ハクにとっては大事な宝物だから、なくしたままではイヤなんだって。見つけたらどうしてもしたいことがあって、それは宝玉さえ見つかれば、すぐなんだって」

「したいことって?」

「……。それは見つけてからの話しだ」

 ハクは宝玉を見つけて、あの龍と会いたい。

だけど、その龍が化けている荒木さん自身は、ハクに会いたくないし早く帰ってほしい。

宝玉は……見つけない方がいいのかな?

「見つけたら、すぐに帰るんだって。そうなんでしょ」

「あぁ、すぐに帰るさ」

 ハクは真っ白な体を少し動かして、とぐろをまき直す。

これ以上話す気はないらしい。

俺にしたって、どうしていいのか分からないし、深入りも関わる気もないから、距離を取ろうと思う。
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