龍神さまのいるところ
第13章

第1話

 学校での最後の練習公演も無事に終わって、舞台に設置された大道具や背景などの搬送が始まる。

演劇部員たちに混じって、俺もそれを手伝った。

トラックを見送ったところで、ようやく解散となる。

荒木さんもいないから、ミーティングも早い。

すっかり日の落ちた坂道を下ってゆく。

彼女と並んで歩くのも久しぶりだ。

「いよいよ、明日だね」

「うん。なんか緊張する」

「俺も」

 夜風がすぐ真横にある前髪を揺らす。

俺だって緊張している。

違うだろ。

本当に話したいことは、コレじゃない。

「もう準備は万全?」

「何度もチェックしたから、多分大丈夫」

「はは、こういうのって、いくらチェックしてても、絶対に当日忘れ物に気づくってやつだよね」

「ちょ、そんなこと言わないでよ」

 いつまでも、避けるワケにはいかない。

大きく息を吸い込んで、そのまま吐き出す。

「荒木さんと……、ハクに会った」

「ハクと?」

「ハクが人間の女の子になってて……。荒木さんと手をつないで、どっか行ってた」

「はは。荒木さん優しいな」

 そう言って笑った彼女の横顔に、外灯の明かりがさす。

「やっぱり気になるんだ」

「だれが?」

「荒木さん」

「なにそれ。うちの部長、確かにモテるけど、それは本性を知らない部外者だからだと思うよ」

「そうなの?」

「中身知ったら、そんなの吹き飛ぶから」

「……。どんなふうに?」

「そのうち分かるよ」

 上目遣いでにらみつける彼女に、思わず吹き出す。

笑い始めたら止まらなくて、気づけば彼女も一緒に笑っていた。

「怖いんだ」

「もうね、威圧的なの。異次元レベルで。自分超大好きで、他には全く興味ナシってかんじ」

「なんか分かる」

「だけど、目立つのは嫌いなんだよね。それが不思議。今回も主役じゃないし、演者でもないんだよ。監督なのにインタビュー記事とかまで、全部違う人に任せちゃってるし」

 体育館の時とは違う暗がりの中で、やっぱり彼女の横顔は真っ直ぐに前を向いていた。

「だけど、好きなんだ」

「しつこい」

 彼女のグーパンチが俺の腕に触れた。

もうちょっと強く叩いてくれないと、リアクションもしずらいんだけど……。
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