龍神さまのいるところ

第3話

「面白い?」

 そう尋ねても、返事はなかった。

希先輩はそのハクにあれこれと話しかけ、世話を焼こうとはしていたけれど、それにも全くのお構いなしだ。

無反応過ぎるハクに、ついに希先輩はさじを投げた。

「何考えてんの」

 俺がサラサラと黒すぎる髪に触れようとしたら、それは払いのけられた。

意識はあるらしい。

上演は再開され、俺はまた舞台下を撮影班として、ちょろちょろと動き回る。

芝居が終わって、大きな拍手が沸き起こり、ようやく息を吐き出した。

「おつかれ」

 山本とハイタッチ。

「片付け手伝いに行こう」

「圭吾はその子連れとけよ」

 山本と希先輩は、さっさと舞台袖に行ってしまった。

俺は明るくなった客席で、ハクの隣に腰を下ろす。

「どうする?」

 無言のまま、彼女は俺の手を握った。

そりゃ舞台袖に上がりたいのは分かるけど、こんな小さな子を連れて行くのはダメだよなぁ。

かといって、本当は幼くないコイツの扱いを、どうしていいのかも分かんないけど……。

目が合った。

ハクは俺の手を引いて、撤収作業の始まる舞台下まで近寄る。

「えっと、ここまでにしとこうね」

 慣れない口調とちぐはぐな会話に、ドッと汗をかく。

その場に立ち止まると、彼女はじっと何かを目で追いかけている。

何を見ているんだろう。

顔を上げると、舞香と目が合った。

「圭吾。先に帰っててよかったのに。あぁ、ハクを任されちゃったのか」

 ハクは壇上の彼女に向かって、小さな白い手を振った。

「うん。一緒に帰ろう。待っててね」

 以心伝心? 俺には何も聞こえないのに……。

ハクは何かを言いたげに俺を見上げたけど、そんな目で見られても俺には分かんないよ。
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