龍神さまのいるところ

第5話

「ハクちゃん!」

 龍の姿に戻ったハクの首根っこを、ガシッとつまんだ荒木さんは、そのままグイと舞香に押しつけた。

今度は舞香が、チビ龍のハクを抱きしめる。

荒木さんはあっさりと二人に背を向けた。

「じゃ、お疲れ。ゆっくり休めよ」

「ちょ、待ってよ!」 

 希先輩は、すぐに荒木さんの背中を追いかける。

振り返ることもなく行ってしまった彼の腕に、自分の腕を絡めた。

「ねぇ、話しがあるんだけど……」

 希先輩は荒木さんの腕に絡みついたまま、気遣いも見せない彼を見上げる。

希先輩の横顔は沈む最後の夕陽に照らされ、浮きあがっていた。

あっという間に俺たちは、この場にとり残されてしまう。

街路樹と交互に並んだ外灯に、明かりが灯った。

「荒木さん、龍のハクには興味ないんだ」

「うん。人間に化けてないと、見向きもしない」

「同じものなのにな」

 舞香の腕の中の、ハクを見つめる。

彼女は何も言わなかった。

「か、帰ろっか。もう遅いし」

 俺には半透明に透けて見えるハクが、舞香の腕からふわりと飛び上がった。

「私は少し、様子を見てくる」

「……。ハクはやっぱり、荒木さんと希先輩が気になる?」

「宝玉が眠っているのかもしれないのだろう? もう少し、この公園付近を回ってくる」

 舞香の質問には答えず、ハクは一匹で出かけてしまった。

俺と舞香は、すっかり日の落ちた公会堂を後にする。

彼女と肩を並べて歩いた。

いつもの通学路とは違う道のりが、歩く二人の距離を縮めているような気がした。

「荒木さんね、妹さんのこと、すごく好きだったみたい」

 彼女はポツリと、そうつぶやいた。

「歳が離れてて……。ほら、荒木さん、自分以外に興味ない人だから。妹さんのことも、そんなに相手にはしてなかったみたいなんだけど……。病気が分かって、入院して、そのまま退院することもなく、あっという間に亡くなったんだって。荒木さんが小学生の時の話しらしいから、もう何年も経つんだけど……」

 それは、あのヒトの天上での過去と繋がっているのか、それとも現世で受ける罪の一部なのか……。
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