龍神さまのいるところ

第5話

「そういうことだから。舞香、さっさとすませて、部活に戻ってきてくれ」

「分かりました」

 彼女の腕が、俺の腕に絡みつく。

「ね、早く撮影しよ? どこで撮る?」

 彼女の肩までの髪が揺れる。

その場ですぐに立ち上がると、俺たちはレンズ越しに向かいあった。

午後の日差しの中で、深い緑の森が揺れる。

「どうして宝玉を落としたりなんかしたんだよ」

「そんなこと、聞いてどうする」

「協力するにしても、動機が必要だろ」

 彼女は自由気ままだ。

撮影のことなんて全く頭にないから、本当に好き勝手に動き回り、ぶらぶらしている。

「動機って、手伝うつもりもない奴に、話してどうする」

「俺は不要ってこと?」

「必要だとでも思っていたのか?」

 思わずレンズを下げ、舞香をにらむ。

だけどここで荒木さんの話を出すのは、負けのような気がした。

「別に。そんなこと、知ってるし」

 肩までの髪が流れる。

背後から吹き抜けた風が、彼女の髪を巻き上げた。

その横顔にシャッターを切る。

「ならいいよ」

 うつむいて、乱れる髪を耳にかける。

彼女が背を向けた。

「意味なんてないもんね。そんなことしたって」

「そうだよ」

 分かってるじゃないか、自分だって。俺だって。

「私ね、ちょっとは仲良くなれた気がしてたんだ。圭吾とも。あんまりしゃべらなかったけど。それでも友達になれた気がしてたのは、自分だけだったんだなって」

 彼女は俺に背を向けたまま両腕を広げ、ゆっくりと歩き出す。

その一歩一歩を、俺はカメラの画像に収める。

「友達だよ。友達。俺と舞香は、友達」

 俺はその問いに答えた。

振り向いた彼女は微笑む。

「そうだよね。よかった」

 舞香が泣いていたような気がして、だけどそんなことは気のせいで、どうして彼女がいまそんなふうに見えたのかなんてことは、きっと考えたって出てこない。
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