千早くんは、容赦が無い

「え……?」

 突然千早くんが立ち止まって尋ねてきた。

 真剣な面持ちで、だけどどこか心配そうに私の顔を覗き込む。

「いや、今日ずっと上の空だから。何か心配なことでもあんの?」

「あ……」

 千早くんに対して申し訳ない気持ちになった。

 せっかく私に話しかけてくれていたのに、麗奈のことにかまけてほとんど聞き流してしまっていた。

「……ご、ごめん」

「謝らなくていいけど。俺に話せることなら、話してよ」

 柔らかい笑みを浮かべて、優しく言う。

 千早くんには言うつもりはなかった私だったけれど、その笑顔と声を聞いたら。

 彼が私のこのどうしようもない気持ちを、なんとかしてくれるんじゃないかって気になって。

 ――だから。

「実は、私の妹のことなんだけど――」

 私は麗奈の今の状況を、詳しく千早くんに話してみた。

 中学生になってから、ずっと吹奏楽一筋で頑張っていたこと。

 恋愛がらみのいざこざで、麗奈には全く非が無いにも関わらず女子の先輩から嫌がらせを受けていること。

 そのせいで部活に行かずにひとりで練習していること。

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