゚・*:Plesance Sinfonia:*゚・
温かい陽射しと晴れた空、それに清々しいほどの景色。
ここキングダムAの景色を見ているだけで、自分が何かから救われたような気さえした。

あの寂れた街から。

忌々しい日常から。


「空気が美味しいし、気持ちいいね。
ハニーはずっとここで暮らしてきたの?」


前を歩く兎はアリスに目線をやって応えた。


「ずっとではありませんが、ここに落ち着いてからは長くなりますね。」


「前はどんな所に住んでたの?」


するとハニーは何か思いに耽るように空を見た。


「そうですね、とてもいい所でしたよ。
まるで楽園のような場所で、蟠りも無ければ息苦しさも感じない、そんな所でした。」


「素敵なところに住んでたのね。」


「ええ。けれどそこにいれたのも限られた時間でしたから。

我々の生きる道というのは辛さと幸せが半々でできているのです。
即ち私がそこで幸せに暮らしていた分、当然ながら辛さもやってくる訳です。」


「じゃあ、私にはこれから幸せがやってくる?」


アリスの問いにハニーは立ち止まって振り返った。


「これから貴方に襲い掛かる運命は、決して楽なものではありません。
しかし断言しましょう。

その後には必ずや幸福がやってくるという事を。」


ハニーの力強い眼差しに、アリスはまたも安堵を覚えた。

ハニーには何かわからないが大きな力がある。
安心感というか、包容力というか、それに似た何かが。



垣根の迷路も終盤に差し掛かった頃、アリスはまたも奇妙なものを目にすることになる。

垣根には深紅の薔薇が咲きほこっていたが、迷路の出口に行くにつれて白い薔薇が目立っていた。


そして出口で見たのが純白の薔薇に赤いペンキを塗りたくる男だった。


その男の体が、なんとトランプだったのだ。
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