絢なすひとと
第四章/葉月に紡ぐ


あら雨、と事務所で葉書の宛名書きをしていると、誰かが声をあげた。

その声に窓に目をやると、気づけば外が灰色に沈み、線状にけぶっている。
激しくなる雨音に、「今日、洗濯物干してきちゃった」という嘆き声があがる。

土砂降りだ、さっきまで雲ひとつなかったのに。
近くのデスクの方と目が合ったので「にわか雨ですね」と口にした。

驟雨(しゅうう)ともいうのよね」

「へえー、そう言われると風情がありますね」

「この仕事してると、和語に敏感になるのよね」

「それ分かります」
互いに頷く。

着物はただ繊維を織った布、ではない。四季、文化、歴史といったものが映しとられているのだ。
驟雨、とさっそくパソコンで字を検索してしまった。

どんな言葉で表現しても、出先で傘を持っていないひとには災難だろう。
雨降って地固まる、なんていうことわざもあるけど、こんな突然の雨がもたらすものははたして…ふとそんな思いが頭をよぎった。
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