愛しの三味線侍
「え? でも、スタジオもうここだよ?」


そう言って横にそびえ立つビルを指差した。


そこは世界でも有名な超大手のレコーヂィングスタジオで、頭がクラクラしてきた。


きっと私と一弘では生きている次元が違うのだ。


気楽に見学したいと思って来られるような場所ではない。


「いえ、でも私なんかがこんなところに来るのはちょっと」


すっかり怖気づいてしまっている私の手を、一弘は強引に握りしめた。


その手が以外にもガッシリとしていて、ギターのあやっつているためが指先は皮が固くなっている。


努力の証である手に触れられて、振りほどくことができなかった。


「ここまで来てそれはダメだよ。みんなにも、今日は見学者が来るって伝えてるんだから」


強引に手を引かれて建物内へと足を踏み入れた。


広いエントランスの入り口には警備員が立っていて、一弘が通行許可書を提示して中へ入っていく。


受付の中には2人のキレイな女性がいて、丁寧にお辞儀をしてくる。


こんな雰囲気すら慣れていない私は常にオロオロしっぱなしだ。


自分が勤めている会社とは大違いだ。


一弘と一緒にエレベーターに乗って、目指す階へと向かう。


エレベーターまで自社と比べてしまうが、とても静かでほとんど揺れないことに感激してしまった。


自分が勤めている会社のエレベーターはもっと狭くて動き出すとガタガタと小刻みに揺れる。
< 19 / 40 >

この作品をシェア

pagetop