クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
コンコンコン。ドアをノックする音が響く。

「何…。」
ぶっきらぼうな口調で修哉は言う。

「失礼しまーす。
どうですか?何か良い曲作れそうですが?」

軽い感じで剣持が入ってくる。

修哉はギロっと目力強く睨む。

「あー。やっぱりあんまり進んでないみたいですね。
もういいじゃないですか、とりあえずインデーズの時の2、3曲いれましょうよ。
何ならカバー曲でもいいですよ。今ウケるからそういうの。ちょっと『YUKI』風にアレンジして出せば。」

ホントこいつは曲者だ。
と、修哉は思う。
それに自分の仕事に忠実だ。
頭の中はきっと、納期と、何でもいいから売れればいい。
って思ってるに違いない。

「…分かった。
じゃあ。2曲は昔のをアレンジして歌い直す。」
修哉が不機嫌に言う。

「あれっ。
どうしたんですか?
突然アッサリですね?
あんなに全部新曲にこだわってたのに。」

痛い所を突いてきたと修哉は思った。

そう。
彼女に、小春に会ってからの修哉は、
どこか変わっていた。

そして、
剣持は思う。

あんなにこだわっていたのに突然、妥協してくるなんて。

あの子は何者なんだと。
ただのミーハーな好奇心なのかもしれないが、この修哉が。
誰にも影響されず、流されず。
弱みのひとつも見せない頑な男が。

1人の少女の様な、まだ幼さを残す純朴そうな、可愛いらしい彼女に会ってから何か変だ。
妙に気になる。

持ち前の好奇心のアンテナがソワソワと動き出す剣持だった。

修哉は思う。
コイツにだけは悟られてはいけないと。
彼女の事を守るためにも。
これ以上近づけさせてはいけないと。
 
だから、曲作りなんかに時間を割いてる場合じゃない。
悪いけど、俺にとって彼女がすべてだ。見つかった以上、彼女の為だけに心を割きたい。

こんな奴だと彼女に知れたら幻滅されるだろうなと、自分の事ながら軽笑する修哉であった。
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