クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜

8 突然の告白

電車は駅に停まるごとに段々乗客が増えて来て、小春と修哉の距離も段々近づいていく。

🎵〜

どこからか『YUK I』の曲が小さく聞こえてくる。あっ、隣に立ってる高校生のイヤフォンからだ。
ファンなのかなぁ?

先輩にも聞こえてるのかな?どんな気持ちでいるんだろ?控えめに見上げてみる。
目が合ってしばらく見つめ合った後、

聞きたいな先輩の気持ち、もっと素直になろうとなりたいと、決心した。

小春は背伸びをして、修哉に届くようにでも内緒話をする様にこっそりと打ち明ける。

修哉も耳を傾け小春に近づく、

「私、『YUK I』の曲が大好きなんです。先輩が『YUK I』ですよね?」

修哉が目を大きく見開き小春を見る。

「先輩が隠そうとするから…なかなかいい出せなかったんです。
ホントはお礼がいいたかった。

私は、先輩の歌で何度も救われました。励まされました。ありがとうございます。」

修哉は思わず小春を片手で抱き寄せる。

抱きしめられてどうしていいか分からず固まる。でも、伝えなくちゃ。今しかない。


「先輩、私、先輩の事がずっと大好きでした。

あの頃からずっと変わらず、…大好きです。」
最後は呟くくらい小さい声になっちゃったけど、ちゃんと伝わったかな?

私は先輩に相応しくとは今も思う。
でも、自分の気持ちを曖昧なままにして、
これ以上気づかない振りも出来なくなってきた。
先輩が私を思ってくれるのだから、自信を持たなくちゃ。


一瞬の間、修哉の肩が小刻みに震える。

「なんで、なんで今、言うんだよ。
こんな人混みじゃ、何にも出来ないじゃないか」 

小春を片手で抱きしめながら、
もっと繋がりたい衝動を抑える。

「隠したかった訳じゃない。
ただ、俺が臆病だっただけだ…小春が離れてしまいそうでいい出せなかった。」

先輩も怖かったんだ。私と同じ。

恐る恐る手を修哉の背中に回して、遠慮がちにぎゅっとしてみる。

「…次の駅で降りるよ」
それから2人無言で、人混みと共に駅に降り立った。

修哉は小春の手を取り歩き出す。

小春は心拍数を上げながら、手を引かれる様に修哉の後を足速について行く。


映画館のエレベーター待ちでやっと足を止め、息を整えた。

「せ、先輩、なんか怒ってますか?」
心配になって修哉を見上げる。

「別に怒ってない。」 

小首を傾げて、不安な顔で修哉をみる。
私何か間違っちゃった?
あんな電車の中でなんかで告白したから、
怒らせちゃった?

エレベーターが到着して引っ張られるように乗り込むと、不意に修哉が小春の頬にキスをした。

びっくりして見上げて、瞬きをする。

「さっきからずっと先輩呼びに戻ってるから、ペナルティ。」

そう言って、私の唇にキスをした。

えっ⁉︎今…キスされた⁉︎
一瞬の出来事で思考が固まり小さくパニックになる。

そんな私をお構いなしに、
「これから先輩って呼ばれた分だけキスするから」
そう言うと楽しげにまたキスをする。
今度は啄むように角度を変えて何度も。

恥ずかしくて目をつぶり、息をひそめる。
ペナルティにしてもこんなに優しいペナルティは知らない。

頭がボーとして、されるがままに流される。

優しく微笑んで私を見つめる先輩の顔を一生忘れないだろうとぼんやり思った。


気づけば、2人映画館に到着していて、浮遊感を感じながらら修哉の手を繋ぎついて行くしかなかった。
何だろこの経験値の無さ、私と先輩とでは雲泥の差だ。

こんな子供っぽすぎる私でも、本当にいいのかなぁ。

「へぇ。プレミアシートってがあるんだ。小春、これにしよう」
嬉しそうに微笑む先輩。

普段、感情の起伏をまったく見せない先輩がちょっと楽しそうだ。

良かった。
車に乗った時から少し、先輩の様子がおかしかったから、何か私がしちゃったのかと内心、心配していた。

何かあったとしても、
もっと私に話して欲しい。 

対等になりたいって言ってくれたから、
もっと先輩の心に触れたい。
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