さよならの向こうにある世界

 今日のシフトは極上スマイルの三浦さんとだ。彼女はあまりテキパキと業務を熟せる方ではないけど、かといってどんくさい訳でもない。いわゆる、普通だ。身長は私より少し高めだが髪の長さは私より少し短い茶髪のボブヘアの女の子で、とにかくおじさん人気が高い。わざわざ彼女のレジに並びにいくお客さんまでいるのだから、私はせっせと品出しを進められる。

 ラーメンの品出しを終わらせたところで、レジでの会話が耳に入ってきた。背伸びをして棚の上から様子を覗いてみると、何やら三浦さんが金髪集団に迫られている。「めんどくさい」という本心をぎこちない笑顔で誤魔化しながら少しずつ近寄ってみると、レジに置かれた数本のアルコールが目に入った。そして彼らを仕切っていそうな男が「早く三十番取れって」と、少々大きな声をあげて事を荒立て始めた。「そういう感じが未成年なんだよ」と今度は眉間に皺を寄せながら誰にも聞こえない声量でぼやく。それと同時に、おそらく彼らに年齢確認をした三浦さんを偉いぞと称える気持ちが心をくすぐった。きっと私なら気づかない振りをしたと思う。とにかくめんどうなことは嫌いだ。

 だけど今、ピンチな後輩を救えるのは私しかいない。嫌だけど、正直ものすごく嫌だけど、助けにいかなければならない。こんな私でも日本人に生まれたからには、マナーやルールには逆らうべきではないという気持ちはある。それでも日本人らしく傍観者を貫きたいという気持ちの方が正直大きかった。だけどここでは一応先輩なのだ。どうやって彼女のことを助けるかとか、そういう細かいことは考えずにとりあえずレジの方へと足先を向ける。
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