夏は愛と青春の季節








中帝高校の正門は6時半に開く。
なぜそんなことを知っているかと言うと、この目で見たからだ。というか、登校しているからだった。



その時間だと用務員さんともしょっちゅう顔を合わせる。


「嬢ちゃん、早いねえ。ほら、この前言ってた本持ってきたよ」と用務員さんと本の貸し借りをする仲だったりもして、早起きは三文の徳だなあと頷く。




なにも用務員さんから本を借りるために早起きして来ている訳では無かった。それは偶然のきっかけで、副産物にすぎない。



私は純粋に朝の学校が好きなのだ。



まず、学校へ向かう途中は混じり気がなく澄んだ冷たい空気、それを独り占めしている。



そんな優越感があるし、校舎へ入ると自分の上履きが反響する廊下が、なんとも言えない不思議な気持ちにさせる。


そして3階の教室、窓際の自分の席に座ると妙に落ち着いた。



誰もいない、静かで自分だけの教室。雑踏は私に孤独をあたえ、静寂は私を優しく包み込んでくれた。


目を瞑れば、タッタッタッと秒針を刻む音まで聞こえる。



窓を開け、そこから見える景色がとにかく好きだった。



昼間はなぜだか霞んで見えない所、はるか遠くの山まで見通せるから。
季節によって、それは赤だったり緑だったり、雰囲気を変え私をいつも新鮮な気持ちにさせてくれる。


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