もう、キスだけじゃ足んない。


芸能界に入ってすぐのあたしは、まだまだ駆け出し。

デビューしてすぐに表紙をもらえることもなければ、出させてもらえるページも少ない。


そんな中で杏はデビューしたとたん、ぐんぐん人気が伸びて、ファンが増えて。


そんな杏には小さいころからの幼なじみがいて、それがあたしって話もすぐに広まって。

嫉妬してくる女も、たくさんいた。


「だからね、断ったの」


自信がなかった。


元々こういう性格だし、杏に合わないとか、近づくなとか言われても、べつに痛くもかゆくもなかった。


いつも通り笑って、笑い飛ばして撮影に挑む。


でも心の中ではずっとずっと泣いていた。


杏とあたしとの関係をなにも知らないのに、杏の容姿と名誉しか見てない、上っ面しか見えてない女たちに、あれこれ言われるのが。


杏くんて、もっと大人っぽい子が好きなんだよ。


違う、杏はそんなこと一度も言ったことない。


杏くんて、momoちゃんのこと、ずっと嫌いだったらしいよ。


あたしの姿見てあんな泣きそうな顔して、めったに怒らない、感情の起伏がない、穏やかな杏が荒れた。

そんなの、信じない。信じたくない。


「そうしているうちに、杏に告白されて」


泣きそうなくらい、幸せだった。

夢かと思った。


ずっと好きだった人に好きだって言われて、そばにいたいって言われて。


でも、あたしと付き合うことで、杏のイメージが悪くなるかもしれない。

人気が出てきて大事な時期の杏が、あたしのせいでわるく言われるかもしれない。


重荷にだけは、なりたくない。


『言いたいやつには言わせとけばいい。桃華がどんなに優しくて家族思いなのか、そばで見てきた俺が一番分かってる。bondの人気は落とさない。桃華の支えになりたい。桃華のこと、好きなんだ』


「いくらそう言ってくれても、自分に自信がない、こんなぐちゃぐちゃで中途半端な気持ちのまま、告白を受けたくないって思ったの」


でもあれから時は流れて、あたしは今モデルとして1人前になったって言われるようになった。


「昨日ね、杏に告白されたの」

「えっ!?」
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