もう、キスだけじゃ足んない。

すべてがほしい



それからあっという間に時間が過ぎて。


コンコン。


「胡桃ちゃん」

「清見さん……!」

「ごめんね、待たせちゃって。
準備大丈夫そう?」

「はい」


楽屋へと迎えに来てくれた清見さんとスタジオへ向かう。


「緊張する?キスシーン」

「そうですね……」


今からの撮影は、最初の告白シーンと、キスシーン。

告白シーンは何度もセリフの練習をしたし、大丈夫なはず。

キスシーンは、ふつうのキスじゃなくて……監督の希望で深いやつ……。

きっと、さっきまでの私なら緊張で心臓もバックンバックンしてただろうし、頭も真っ白になっていたかもしれないけど。


「あの……清見さん」

「うん?」


「遥は……」


今は遥の……さっきの言葉が頭をぐるぐる回ってて。


「他の男とのキスシーンよりも、遥が心配?」

「はい……」



撮影を一番に考えないといけないのに、めったに見ないあの苦しそうな表情が頭から離れない。


「あーあ。こんな可愛い子にここまで想われるとかほんっと羨ましいわ、アイツ。にしても胡桃ちゃん、遥のことに関してすごく素直になったというか、ツンがなくなったというか」


「そんなに変わりました?」


「いやー、もうびっくりするくらい」


「え」


「女の子が男の手で変わっていくのって、めちゃくちゃエロいよね」


「……なに言ってるんですか」


「うわぁ……俺に冷ややかな目向けてくるところもいっしょ。ますます遥色になっちゃったね、胡桃ちゃん……」


遥色、か……。

でもあながちそうかもしれない。

変わっていく。

遥と付き合ったことで自分に自信がついて、前よりも素直にしてほしいこと、思っていることを言えるようになったから。
< 214 / 323 >

この作品をシェア

pagetop