迷彩服の恋人
「あっ、そうだったんですね…。とりあえず、立ちっぱなしもあれなんで…中へどうぞ。」

土岐さん…顔は赤いし、頭ポリポリ掻いてる。
照れてるところも…なんか好き。

"入っていいの?"と思ったけど、今日は良いらしい。

ただし、私達…"民間人に見られてはいけない重要書類"があったりするから…散らかっていないかは何度も確認していたけれど。

「制服が好きなのには、理由が…?」

意外な質問だった。まさか掘り下げてくるなんて……。

「あっ、はい。実は――。」

私はアニメや声優好きの延長で、演技や舞台演出…さらには衣装作りに至るまで"生み出されたもの"や"手間暇かけて作られたもの"に感動すること…。
だからコスプレイヤーも好きで、技術職の方を尊敬していると土岐さんに伝える。

「…確かに、被服も技術要りますね。そうか、自分で作ってる方がいらっしゃるんだなー。」

そんな話をしていると――。

「土岐士長、車両整備や物品のチェックリストは?…あっ、これはこれは。来客がいらっしゃったんだな、失礼。確か…志貴3曹の恋人の、桧原さん…だったかな?ご無沙汰していましたね。」

「間もなく完了します、“森下(もりした)技術曹”。いえ、問題ありません。彼女達に、掛けて頂いたので…今、対応が落ち着いて作業を再開させるところでした。」

「森下1曹。ご無沙汰しておりましたが、覚えて下さっているなんて光栄です。ありがとうございます。日頃より、志貴がお世話になっております。」

“1曹”で“技術曹”…。はっ!土岐さんの上官の方だ…きっと!

「桧原さんのお連れの方かな?」

「森下技曹、6月の中頃に私が技曹と当直を代わった日があったかと思いますが、覚えていらっしゃいますか?…その時、私が助けた民間人女性というのが、彼女だったんです。」

あぁ。あの日、お困りだったのは…森下さんだったんだ。

「あぁ。あの時の…。その節は申し訳ありませんでした。愛娘が風邪で発熱しまして――。」

そこからは…森下さんからのお詫びの言葉を聞き、私も名乗り…駐屯地祭に来た経緯を話した。

その間、時折紙をめくる音が聞こえる。右隣に座る土岐さんを盗み見ると――。
資料を入念にチェックしていて、その真剣な眼差しと横顔に…密かに心をときめかせる。

「あぁ。そうだ、望月さん。この後の車両整備、見に来られますか?…彼の仕事してる姿、見たいのでは?」

森下さんからの、思ってもみない提案だった。
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