迷彩服の恋人

土石流…。

映像を見て、私は画面から目を背けたくなった。

押し流されて半壊した家、泥水に浮かぶ家、濁流が建物を壊してできた瓦礫(がれき)の山――。


土岐さんは…災害がある度に、こんな危険な場所で活動してるの…?

想像するだけで、とてつもない不安感に襲われる。だから、それ以上考えるのをやめた。



【静岡に行ってきます。
今から3日間は完全に音信不通になります。】

土岐さんから、そんなメッセージが入っていたのは翌日――7月末日の明け方だった。

土岐さんも…現地の被害状況も心配。
だけど、心配しすぎて私が調子を崩すことを…彼はきっと望んでいない。

私に今できることは【コンペ】に勝って、【保存食用のカレー】を商品化し、次に備えられるようにすること――。

頑張って仕事しよう。
それからは、自宅で結花先輩と一心不乱に仕事した。

8月初日――。
出社した私達は、昨日の遅れを取り戻すように業務を捌いていく。



「望月さんと桧原主任、何か大丈夫か…鬼気迫るものを感じるけど…。」――。

そんな声がどこからか聞こえてくるけど、応答する余裕が今の私には…無い。

きっと、静岡の話題を聞く羽目になって…泣いてしまうから。

【静岡に行ってきます。】――。
そう連絡をもらったのを最後に…土岐さんからの返信は4日間一切無い。
だけど同僚達は、私と結花先輩の状況を知らないから…思ったことを言うのは仕方ない。


【ちゃんと眠れていますか?】――。


そう送るのが、ここ4日間の日課になっている。

――土岐さん。どうか元気でいて下さい。




【望月さん、連絡できずにすみません。
まず、僕達は事故無く作業してます。
心配しないで。
望月さんは優しくて、強い人だ。
あなただって不安でしょうに…
僕を気遣ってくれる。
睡眠は2時間です。車両整備、絶えずです。
心配してくれているのに
謝らなきゃいけないですね。
早く帰りたい…。望月さんに会いたいです。】

「土岐さんっ!」

「隼人っ!」

土岐さん達が静岡へ行ってから5日目の夜、メッセージが来た!
私と結花先輩は同時に声を上げ、抱き合って喜んだ。

2時間でも眠れているならいい…。よかった。

救助活動や瓦礫の撤去作業が続く限り、車両整備も続くから交代で仮眠を取ると…以前話してくれたことがあり、気がかりだったのだ。
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