狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

「ああ、これはこれは、牧村さんじゃないですか。いやー、いつもお世話になっております」

 周囲のスタッフに労いの声をかけつつそう言って近くの出入口から現れたのは、尊の片腕でありT&Kシステムズの副社長を務める阿久津である。

 阿久津は尊ほどではないが、長身の持ち主で、容貌も整っている。

 ふんわりと柔らかそうなブラウンの髪をさり気なく掻き上げつつ颯爽と歩み寄ってきた。その姿に周囲の女性の目は惹きつけられている。

 一見、物腰柔らかで甘い雰囲気を醸し出してはいるが、仕事に対して一切の妥協も容赦もないことから、『鬼の阿久津』などという異名がついているらしい。

 それは社内だけに留まらず、T&Kシステムズがスポンサーとなっている、このスタジオを所持する制作会社にも浸透しているようだった。

「……あっ、ああ、阿久津さんでしたか。わざわざ現場までこられるなんて珍しいですねえ」

「ええ。たまには現場にも脚を運んでおかないと、色々把握しきれないこともありますからねぇ」

「……そ、そうですか。では僕はスタッフとの打ち合わせがありますので、これで」

 スポンサー企業の重役の姿を目にした途端、牧村は美桜への態度を改め、挨拶もそこそこに逃げるようにして仕事へと戻っていく。

 牧村のあからさまな態度に唖然としていた美桜に阿久津から声がかかった。
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