狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

 なんでも天澤家の遠縁に当たるんだそうだ。

 若い頃に嫁ぎ先から訳あって出戻ったはいいが、兄嫁との折り合いが悪かったとかで、実家で肩身の狭い思いをしていたらしい。

 ちょうどその頃、弦一郎が法要で麻美の実家に出向いていたことで、見かねた弦一郎の勧めから、使用人としてこの家で働くようになったのだという。

『遠縁というのもあったし、親同士が仲がよかったんですよ。なので弦一郎さんとは幼い頃から年の離れた兄弟のように育ってきたこともあって、不憫で放っても置けなかったんでしょうねぇ』

 まだ十代だった自分にそういって麻美が話してくれたが。

 当時、住み込みの使用人を探していたらしい弦一郎も、赤の他人を家に住ませるのには抵抗があっただろうから、どちらにとっても都合が良かったのだろうし。

 おそらく弦一郎は、しっかり者で働き者でもある麻美には、この仕事が向いていると思ったから勧めたのだろう。

 実際、他の通いの使用人とは違って、家の細部まで任せられているし、前家元の息のかかった麻美は、誰よりもこの家のことを知り尽くしているといっても過言ではない。

 行事事に関しても、麻美のサポートがなければ、成り立たないことは誰の目から見ても、明白だった。

 故に、薫も愼も麻美には強く出られない訳である。

 美桜にとって麻美は、この家で唯一の味方であり、心の拠り所でもあった。

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