狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

 この日も朝から気温が高く、気象予報では、今年一番の夏日になりそうなので、水分補給と体調管理には注意が必要だと報じられていた。

 いつもの美桜なら樹里の気遣いに素直に応じていたのだが、この日はどうもいつもと違っていた。

「美桜ちゃん。今日はお弁当にもあんまり手をつけてなかったし、なんだか顔色も悪いようだけど、大丈夫?」
「……あっ、はい。ただの夏バテなんで大丈夫ですよ」

「でも、最近ずっとそうよね。今のところ撮影も順調だし、ちょっと休憩挟んだ方がよさそうね」
「いえ、本当に大丈夫ですから」

「本当に?」
「はい!」

 ただの夏バテで樹里に余計な心配をかけたくない。という気持ちと、樹里に無意識に抱いていた対抗意識から美桜はつまらない意地を張ってしまったのだろうと思う。

 もしかすると美桜にこれ以上無理をさせないための、身体からのサインだったのかもしれない。

 その日の夕刻。撮影を終えた美桜が樹里に伴われて控え室に戻ろうとしていた道中。控え室まであと二メートルほどというところで突然グニャリと視界が揺らいだ。

 ーーあれ? 目が回る。

 そう思ったときには強烈な目眩に見舞われ、美桜はそのまま意識を手放してしまう。

「ちょっと美桜ちゃんッ!? 大丈夫!? ヒサ、早く救急車。ヤスは至急尊に連絡してッ」

 周辺には、美桜の異変に気づいた樹里が少し離れたところで待機していたヤスとヒサらに指示を飛ばす大きな声がやけに鮮明に響き渡っていた。

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