狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

 豪華絢爛な大広間で、座卓を挟み相対している両親を前に、尊の隣に座している美桜の心情を知ってか知らずか。

 尊が不意に、膝上で拳をギュッと握り締めていた美桜の手を優しくけれどしっかりと、大きな手で包み込んでくれるのだった。

 一瞬、微かにビクッと肩を跳ねさせてしまった美桜が俯けていた顔をあげるも、座卓の下だったことで周りからは見えていないようで。ホッと胸を撫で下ろす。

 ちょうどそこに、尊からここに来た用件を聞かされた薫から、戸惑いながらも警戒心を剥き出しにした、刺々しい大きな声が飛び出した。

「あの、それはどういうことでしょうか? 昨日ご連絡いただいて、美桜さんを預かってくださっているとは伺っておりましたけれど。いきなりそんなことを言われましても」

 美桜は思わず肩を竦ませる。

 けれどまた、尊が包み込んでくれている大きな手でギュッと握り返してくれたことで、緊張の余り凝り固まっていた身体から力が抜けていくのだから不思議だ。

 きっと怖気づきそうな自分にしっかりしろ、と言っているに過ぎないのだろう。

 そんな些細なことでさえも勇気づけられるのだから、我ながら単純だと思う。

 いつしか美桜は、隣に腰を据え胸を張り堂々としている尊に倣って、背筋をしゃんと伸ばし、しっかりと前を見据えていた。

 もう後戻りはできない。そう覚悟を決めて。

< 80 / 244 >

この作品をシェア

pagetop