離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~

 その日、朝から求められてすっかり寝過ごした私の枕元に、永嗣さんが朝ごはんを持ってきてくれた。
 百さんはお休みのはずだから……


「え、もしかしてこれ、永嗣さんが?」

「口に合えばいいんだが」


 和食ばかりだったから、あまりイメージになかったいわゆるイングリッシュ・ブレックファースト。トーストと目玉焼きに、カリカリのベーコンにソーセージ、ハッシュブラウンにベイクドビーンズ。フレッシュオレンジのジュースに、温かなミルクティーまで。

 思わず反応して「ぐう」と鳴るお腹に頬が熱くなる。は、はずかし……!

 永嗣さんはなぜか嬉しげに私のこめかみにキスをする。


「可愛い」


 そんなふうに言われて──私は余計に頬が熱くなる。誤魔化すように私は永嗣さんを見上げた。


「あ、あの、美味しそうです。いただきます……の前に、服を着たいのですが……」

 布団を胸まで持ち上げて身体を隠していた私の訴えに、永嗣さんは「ん?」と首を傾げた。


「? あの、服を」

「どうせ脱ぐからなあ」

「……!?」

 永嗣さんは無言で微笑んで、私の横に座る。それからスプーンにベイクドビーンズを乗せて私に突き出した。

 これは。


「風香。ほら、あーん」


 優しすぎる声で彼が言う。
 目を瞬く私の口元に運ばれたそれを、反射的に口に入れて咀嚼して──そんな私を、永嗣さんは満足げに見つめていた。
 どうしよう、私、顔すごい赤いと思う……


「ああ、そうだ」

 頬が真っ赤だろう私に向かって、なんてこともないように彼は言う。


「夕方から出かけたいのだけれど」

「っ、は、はい。いってらっしゃい」

「風香も一緒に」


 そう言って今度はソーセージを私に食べさせる。


「わ、私も?」

「そう」


 それまで、と永嗣さんが笑った。


「それまで──俺と遊んでいようか」


 何をして? とは、こう、なんとなく怖くて聞けなかった。
< 52 / 84 >

この作品をシェア

pagetop