離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~

 彼と舌を絡める。ほのかな苦味は、さっきまで飲んでいたビールだろうか。生々しい粘膜の感覚、硬質な歯をなぞる悦楽──ああ、知らなかった。いつもされる側で、される方だけが気持ちいいと思っていたけれど、……そうか、こんな風に誰かの口内を貪るのも、とても気持ちがいいことなんだ──

 ちゅぷ、とリップ音を残して唇を離す。夢中になりすぎてあまり呼吸をしていなかったからか、はあはあと肩で息を繰り返した。

 永嗣さんと目が合う。

 ものすごくギラギラしたそれは、信じられないほど身体の奥を切なくし、火をつけ、蕩けさせる──


「風香から始めたんだからな?」

「は、い」


 私の返事に、永嗣さんは満足げに笑う。


「明日動けると思うなよ」


 ぞくぞくと背中を電気が走る。お湯の中、私の腰を掴む大きな手の力強さに、私は小さく震える。

 恐怖ではなく、歓喜と期待で──





「は、ぁ……」

「悪い」


 コテージの広いベッドの上、永嗣さんが私の頭を撫でながら割と本気で心配していそうな声で言う。


「興奮しすぎた」

「大丈夫、です……」


 今にも落ちてしまいそうな意識の中。お腹の奥はいまだ、快楽の余韻で痺れていた。

 永嗣さんが寄り添うように私を抱き寄せる。ぼんやりと、ただ本能のおもむくままに彼の胸元に擦り寄る。永嗣さんの大きな手が、私の後頭部を優しく撫でた。


「風香。眠ってしまう前に──」


 空を見てほしい、と言われてガラスの天井を見上げる──正確には、寝転んでいるからただ目を開けただけだったのだけれど。


「綺麗……」


 夜が深くなっているせいか、さっきよりもっと星が輝いて見えた。一粒一粒、数えられそうなほどに──到底数え終われそうにないくらいに、視界いっぱいに広がる星空。吸い込まれてしまいそう。


「……ん」


 なんだか、横で永嗣さんが無言だ。顔を横に向けて、じっと彼を見た。彼は目線をこっちにやったあと、そっと私の左手を取る。


「返却は受け付けない」


 私がその言葉について考えている間に、薬指に硬質な感覚──指輪だった。小粒のダイヤがぐるりと一周している、いわゆるエタニティリング。


「……あ」


 婚約指輪をプレゼントしたい、と言われていたのを思い出す。
 返却は受け付けない──というのは、返されても困るから?
 それとも、なんて期待してしまうのはどうして。

 違うのに。

 これは、彼のご両親に会った際、不審に思われないようにするための小道具。それ以上でも以下でもないのに。

喜びと困惑と高揚と切なさが入り混じる。私は何も言わず、永嗣さんにしがみついた。


「大切にします。死ぬまで」


 きっと、一粒ダイヤの「婚約指輪」らしい指環じゃないのは、一生を誓うとか、そういう意味じゃないから。それでも、それくらいは許されるよね。


「風香」


 永嗣さんが背中を撫でてくれる。
 大きな手。今は私だけの、大好きな人の手のひら──
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