離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~

 こうなってくれば、彼女が俺の妻である必要はない。実際、風香は退職を撤回していた──新しい支社長は良い人だ、と嬉しげにしていた風香。彼女はいつでもひとりに戻ることができる。

 俺には無理だ。
 風香がいない人生なんて──
 時折、何か言いたげな顔を彼女がするたびに押し倒している。


(……子供でも作ってやろうか)


 そんな考えすら脳裏をよぎる。
 俺から離れられないように。
 俺はぐっと風香を抱きしめて、邪で黒い思考をかき消した。

 人に好きになってもらうにはどうしたらいいんだろうか?

 もし「愛してる」と告げたら、きみはいなくなってしまうだろうか。そんなつもりじゃなかったんです、と優しく眉を下げて──そうして今度こそ、俺は風香の「お巡りさん」ではなくなってしまう。

 それは嫌だな、と思いながら白い首筋に唇を這わせる。ぴくりと風香の肩が揺れる。初心な反応が可愛らしすぎて、俺はそっと彼女の手を握った。小さくて嫋やかな手のひらを包み込むように──

 そうして手のひらの真ん中を親指で軽くひっかくように撫でた。こくん、と風香が唾を飲み込む。

 折れそうなほど細い手の甲の骨を指でなぞる。指の付け根をぐりぐりと押すと、風香の口から「んっ」と甘い声が漏れた。


「ハンドマッサージしてやろうか?」


 顔を上げ、風香の形の良いアタマを見下ろしながら提案する。


「え、あ、だ、大丈夫です……っ」


 振り向いた顔は上気していて、俺は頭がくらくらしてしまう。額にキスをして、今度は手首をするする撫でる。


「ハンドマッサージでそんな顔をするだなんて。いつからそんなに淫らになった?」

「んっ、あ、永嗣さん、に触られたときだけ……っ」


 風香が甘えるように俺の鎖骨の辺りに擦り寄った。


「永嗣さん、だけ……」


 好きな女にそんなことを言われて、理性が焼き切れない男はいないと思う。
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