離婚するはずが、エリート警視は契約妻へ執愛を惜しまない~君のことは生涯俺が守り抜く~

「すみません」


 シュレッダーした紙が詰まった重いゴミ袋を、建物の外に捨てに行く最中のことだった。倉庫兼紙ゴミ捨て場のような、駐車場の反対側、入り口からは死角になっているところ──そこに、現金輸送車が停まっていた。
 その運転席から声をかけられて、私は立ち止まった。


「?」


 私はちょっと疑問に思う。
 だって、そんなところに停める必要性なんかないから。


「どうされました? 駐車場はあっ、ち──きゃあっ!」


 車から降りてきた、この暑いのに顔を隠すように大きなマスクをした男が、私を無理矢理輸送車の荷室のドアを大きく開け、私を投げ込んだ。

 身体を打ち付ける衝撃に、息が詰まる。
 同時に、これが現金輸送車なんかじゃないことを理解した。巧妙に似せてあるけれど、内装は後部座席の椅子を倒しただけ。

 バン! とドアが閉められて、私は慌てて逃げようと片膝を立てる。そこに男が乗ってきて、大きな包丁を私に突きつけた──ぎらりと光る鈍い銀色。恐怖で、肺が痛くなるような息を繰り返す。それでも、ゆっくりと視線を上げていった。マスクをした顔面の、その濁った瞳には、はっきりと見覚えがあるもので。


「迎えにきたよ、風香。ちょっとふたりで話し合おう?」


 そう言って笑う男を、私は……はっきりと睨みつける。そうだ、弱気になるな。
 私は、強くならないといけない。
 心に、永嗣さんの姿を思い浮かべる。
 大丈夫、きっと大丈夫。
 だから、弱気になんかなっちゃいけないんだ……!


「私は!」


 震える心臓を叱咤して、はっきりと声を出す。


「あなたみたいなストーカーと、話すことなんか、何もありません……っ」


 私の必死の言葉にも、ただ男は愉快そうに笑っただけだった。
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