隠された彼の素顔

 ある日、とても執拗に連絡先を聞いてくるお客が来た。よりによって彼がいるときで、私は気が気ではなかった。

 変な店だな。面倒な店だな。そう思われて、もう来てくれなくなってしまうかもしれない。

 お客である以上、無下に断ればお店の信用を失ってしまう。困っていると、スッと彼がレジの前に来た。

「なんだ。兄ちゃん。俺はまだ花井ちゃんと話してるんだよ」

 ああ、もう! 彼に絡まないで!

 申し訳ない気持ちで彼を見遣ると、いつもと雰囲気が違っていた。

 まず猫背が伸びていて、実は長身だったのだと知る。そして人を寄せ付けないオーラを発し、無言で男性を見下ろした。

「な、なんだよ」

 彼の口数が少ないのは普段もそうなのに、全くの別人みたいだ。ピンと張り詰めた緊張感が辺りに漂い、私も彼に気圧されそうになる。

 真正面から対峙する男性はタジタジになり「か、帰ればいいんだろ」と去っていった。

 男性の後ろ姿を見送って見えなくなると、彼の背中が、ふにゃりとまた丸くなる。

 その姿が愛おしくて、けれど彼の別の顔も知り戸惑いを隠せない。

 黙り続ける私の前にそっと差し出されたのは、モンステラの鉢植え。顔を上げると彼は明後日の方向に視線を逸らしている。もちろん目は合わない。

 本当にいつもの彼に戻ってしまった。

 うれしいような、残念のような気がしつつも、「お買い上げですか?」と確認してから、会計をした。

 その日から彼は癒しのきみから、気になる男性に代わった。

 目を伏せたときや、逆に高いところを見上げたとき。なにげない仕草に、あの日の彼がいてドキリとする。

 そうかと思うと、ほとんどの彼はふにゃふにゃで、そのアンバランスさにどんどん惹かれていくのを感じた。
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