隠された彼の素顔
彼の本当の素顔

 ゆっくりと歩み寄ってきた彼は、私の隣の椅子を引き、腰掛けた。

 マスクが鼻先までめくれた、どこか妖艶な姿の彼を見上げる。座っているか立っているかの違いはあるけれど、この光景は三度目だ。

 そして彼は改めてマスクに手をかけて全てめくり上げた。頭を振り、髪をかき上げてから、真っ直ぐに私を見つめる。

 しばらく見つめ合ってから、その目は伏せられ、私の肩に手が置かれた。

 傾けられた顔がゆっくりと近づき、躊躇して、それから優しく唇は重なった。

 柔らかい優しい触れ方に、胸がキュンと甘酸っぱい音を立てる。

「初めて、目が合いました」

「うん」

 言葉少なに彼は告げる。

「好き、だから」

 掠れた声は胸を締め付ける。

「キスしたかった」

「はい」

 ほしかった答えを聞けて、鼻の奥がツンと痛くなる。堪えきれない涙が頬を伝って落ちていく。
< 34 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop