隠された彼の素顔

 彼女は少しだけ迷った素振りを見せたあと、ひと思いに話した。

「私、異性を見る目がなくて、だから友だちに私が選ぶよりも、『マッチングアプリで条件に合う人を検索した方がいいんじゃない?』って言われて」

 見る目がない人には、マッチングアプリの方が危険がはらんでいる気がしてならないが。

 しかし指摘する必要はなかった。

「それが以前、打ち明けた詐欺師の男性なんです」

 彼女はその危険を、身を持って体験したようだ。

「本当は前から気になる男性がいたのに、マッチングなんてして、上手くいくわけがないですよね」

 彼女は眉根を寄せ、言葉も尻すぼみに頼りなくなった。後悔しているのだろう。

「そうかもしれないね。自分の気持ちに正直に生きるべきだ」

 にこやかに答えておいて、胸の奥は急激に冷えていくのを感じた。

 詐欺師に会う前から、つまりはレッドと話す前から気になる人がいたのだ。それはそうだ。彼女に相手がいない方がおかしい。

 これで良かったんだ。この姿の自分を好いてくれているかもしれないという、淡い期待は持つべきじゃない。
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