こいろり!



華花の手を振り払って立ち上がり、慌てて部屋から飛び出した。

後ろから「あいつ逃げてやんのー」と、ケラケラと笑う兄貴の台詞が聞こえた。




「泰良、待って!」


華花の俺の名前を呼ぶ声と足音も聞こえたけど、そのまま急いで玄関から庭の方へ向かって足を踏み出す。




知ってたけど、なんでこんなに庭が広いんだよ。
近くの庭木の茂みに隠れるようにしゃがみ込んだ。息を大きく吸って吐いて呼吸を整え、自分の気持ちと頭の中を落ち着かせる。

赤くなった頬を自身の手で冷やしてから、華花にどんな顔向けていいか頭を抱えていると──。




「泰良、見ーつけたっ!」


後ろの木の影から、華花が腰を屈めて顔を出すから心臓が止まるかと思った。



「な、んだよ、隠れんぼじゃねーんだぞ?」


俺の前に、華花もちょこんとしゃがみ込んで大きな瞳をパチリと見せる。



「泰良ってそんなに私のことが好きだったのね?」

「んぐっ…、あぁ!?お前、調子のり過ぎじゃねぇ?」

「ふふっ」

「あぁん?何が可笑しいんだよ!?」

「ねぇ、泰良、どうして髪の毛黒く染めたのかしら!?」


華花が首を傾げながら、俺の黒くなった髪の毛に触れた。
その小さな手を伸ばして、俺の頭を撫でるように何度も()かしていく。



「あー、だからそれは………どうしてだと思う?」

「私のことが好きだからよね?」





「ふはっ、自分で言うんじゃねーよ」


華花がにっこりと口を緩めて、自信満々にそう言うから思わず俺まで笑ってしまう。


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