ねこのひるねの、ひとりごと

娘と思ってた?

ぼけ~と、咲き始めの桜を眺めていると。

ふっと20数年前に、逝った父を思い出す。

桜も梅も桃も全く見分けがつかなかったくせに。

人が好き。
花見酒をするのが好きな人。
というより、お酒を飲むのが大好きな人。

自分の仲間と集まる事が大好きで。
その口実が、花見だったり、ハイキングだったり。

人生100年時代、なんて言われるけれど。
100回もさくらを見られる訳は無いのだ。

父の場合は61年。

そんな彼は最後の桜を見られなかった。

その年は3月がそんなに暖かくなかった。
蕾は固くほころんでくれなかった。

60余年の人生の最後の年の桜。

出来れば一目、見てほしかった。
一輪でいいから、咲いて欲しかった。

まあ。
ドラマじゃないから。
当然ながら、そううまくはいかなかった。

決して、立派な人じゃない。
はっきり言って、家庭を持てる男性ではないと断言できる。

本気で恨んだこともある。本気で憎んだこともある。

いい成績が取れたから、通知表を見せに行ったら。
「おまえの成績表やろ。なんで俺が見んなんねん!」

え~とぉ。
いちおう、わたしあなたの種と母の卵が元なはず。

つまり子供と言うより、わたしはこの人の気まぐれのおもちゃだな。

そう思うことにしたから、わたしに「父親」はいなくなった。

だけど人が好きな人だった。

逝くその日の早朝は。
あなたの62回目の誕生日だった。

覚悟はしてた。わたしの誕生日にあなたが逝くかもと。

前の日の娘の29回目の誕生日。
ひたすら、眠って危篤でやり過ごし。
自分の誕生日の早朝に逝った。

あなたを産んだわたしの祖母が、きっと迎えにきたんだね。
お母様と逢えた?

ありがとう。
わかりにくい愛情だったけど。
最後にわたしにとっての一生分の誕生日ブレゼントをくれた。

「おまえ、アホやから。一年に一日にしといたるわ。」
そんな憎れまれ口が、聞こえた気がした。

うん!そうやね。ありがと。
あんたの娘だから、わたしアホやもん!
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