これはきっと、恋じゃない。

 ぜんぶの支度を終えて、家を出る。校則違反にならない程度にメイクして、髪の毛も内巻きにワンカールさせた。それにしても、こんな時間に学校に行くことはないから、なんだかすこしソワソワしてしまう。

 人通りは少ない。犬の散歩をしている人と、子どもを幼稚園に送りに行くお母さんたちが、ちらほらいるくらい。穏やかな午前中だった。

 4月の2週目。桜はもうほとんど散ってしまって、葉の青さが濃く出ている。電車を降り、学校へと続く道をのんびり歩きながら、スマホを触る。

『担任、佐藤先生』

「あー、佐藤先生か……」

 佐藤先生は数学の先生だ。そして、わたしが副会長を勤める生徒会担当の先生でもある。副会長になったきっかけは、入ってくれる生徒が少なくて半ば押し付けられた感じだったけれど、佐藤先生には感謝された。おもしろくて良い先生だ。

 ということは、このクラスの数学の担当は、佐藤先生になるのか。授業を受けたことがないから、どんな授業なのか全然わからないけど、楽しかったらいいなぁ。

『てか聞いて、転校生も遅刻らしいよ』
「転校生?」

 ――亜子ちゃんからのメッセージを見て、思わずそう呟いて角を曲がろうとしたときだった。

 ドンと誰かにぶつかった。身体に衝撃が走って、手に持っていたスマホがアスファルトに叩きつけられる。

「す、すみませんっ」
「いや、こちらこそ!」

 顔を上げ、ぶつかった相手を見上げた。……目を、見開いた。そのあまりの美しさに。

< 4 / 127 >

この作品をシェア

pagetop