これはきっと、恋じゃない。


「あの、すみませーん」
 
 わたしたちが校門を出ようとしたとき、その女の子たちの集団で一番前にいる人から声かけられた。高校生、ではなさそうだった。

「はい?」
「あの、セレピの王子くんいますか?」
「え?」

 思わず亜子ちゃんと顔を見合わせる。言葉を発さなくてもわかる。これ、絶対言ったらダメなやつ。

「知りません」
 亜子ちゃんが、毅然とした態度でそう言った。

「え、ほんとにですか? でも王子くん英城ですよね?」
「だから、知らないです! 興味ないですから」
「じゃあ館町くんとか晶くんは?」

 どうしよう。
 ちらっと振り返ってみれば、同じ制服を着た生徒たちが何事かとこっちを見ている。

 たぶんこの人たち、わたしたちが適当にあしらっても、他の子たちに絶対聞くだろう。
 そうしたら、うっかりでも言ってしまう子がいるかもしれない。

 それは、相当やばい。たとえ、もうバレているとしてもだ。

「――忘れ物した!」

 気がついたらそう言っていた。
 
「え?」

 亜子ちゃんと女の子の声がそろう。が、気にせずわたしはくるりと振り向く。

「……それは戻ろ!」

 そして意図が伝わったのか、亜子ちゃんが続いてくれる。それからわたしたちはダッシュで裏門の方に走った。

「こういうことかー!」

 走りながら、わたしは叫んだ。
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