これはきっと、恋じゃない。

4.薫風のきらめき


 そして、いよいよ発表の日がやって来た。

 昨日の夕方ごろ、王子くんから資料が送られてきた。時間がない中だっただろうけど、クオリティは申し分ない。正直、思っていたよりもよくできていて、驚いたくらいだ。

 そうして、1時間目の世界史が始まるチャイムが鳴った。

「それじゃあ、発表してもらいます。順番は……そうだね、出席番号にしよう。ということで、逢沢さんと王子くん、お願いします」

 げっ、いきなりか。
 でもこういうのはさっさと済ませた方がいい。

 わたしのタブレットにライトニングケーブルをはめると、スライドがスクリーンに映し出される。
 わたしたちは肩を並べて教壇の前に立った。そして王子くんと顔を見合わせ、うなずく。

「発表を始めます。発表者は逢沢千世と王子遥灯です。よろしくお願いします」

 最初は王子くんが作ってくれたから、王子くんの番だ。

「みなさんは、この写真の人物はどんな人たちだと思いますか?」

 日本人じゃん、という声がちらほら聞こえて来る。
 ……うん、掴みはいい感じだ。

「実はこれ日本人じゃなくて、キルギスの人たちなんです」

 アニメーションでそれが出て来ると、教室は少しだけざわつく。

 さすが王子くんだ。あまり緊張した様子はなく、淡々と進めていく。聞き取りやすい声と話し方で、やっぱり大勢の人前に立ってきた人はちがうなと思った。キルギスの基本情報を伝え終わると、王子くんの番はそろそろ終わる。

 こんどはわたしの番。タブレットを渡してくれるとき、王子くんは少し微笑んだ。
 王子くんが時間がないなか頑張ってくれたんだ。だからわたしも、がんばらないと。

「続いて、神話のお話です。日本の神話とキルギスの神話には、いくつかの共通点もあります。たとえば――」

 みんなの注目が集まっているのを感じる。
 スムーズにできてる。ただ文献をまとめただけじゃなくて、イラストやアニメーションを使ったのがポイントだ。

「――というわけで、キルギス人と日本人が似ているのは、そういう歴史があったとされているからです。以上で発表を終わります!」

 拍手が巻き起こる。教壇から見えるみんなの表情は、思いの外よかった。たぶん一番最初っていうのもあるからだと思うけど。

 わたしたちは軽く礼をする。すると、山田先生が拍手しなが椅子から立ちあがった。

「逢沢も王子も、忙しい中ご苦労さん。着眼点が面白いし、綺麗にまとめられていた。さすがだな。……よし、じゃあ王子、もう行っていいぞ」
「あ、はい。……すみません」

 そう言うなり、王子くんは自分の席に掛けてあるリュックを手に取ると、急いでいるのか足早に教室を出ていった。

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