罠にはまって仮の側妃になったエルフです。王宮で何故かズタボロの孫(王子)を拾いました。

4ー3 ルーファスとお買い物




「サンドラ様。僕も買い出しに一緒に行きたい」


 12歳になったその日、ルーファスは私にそんなことを言ってきた。
 賄賂のクッキーを食べたくせに、蒸し返すとはなんて奴だ。

「だめだよ、危ないもの」
「サンドラ様は危ないことをしてるの」
「そうじゃない。ルーが、護衛もなしに外に出るのが危ないって言ってるの」
「サンドラ様の傍より安全な場所はないよ」

 全幅の信頼が重い!

「でもね、ルーファス」
「お願いします」
「ルーったら」
「サンドラ様」

 だんだん、私は壁際に追い詰められていく。
 ルーファスは子供だけれども、身長はすでに160センチは超えている。私が162センチなので、ほとんど同じくらいの背丈だ。
 まだ12歳なのにおかしいって? 私だってそう思うよ! でもね、聞いて。ラッセルもリチャードも、180センチ以上背丈があるの。巨人なの!! 10代半ばで巨人に仕上がるためには、12歳時点で160センチは当然で、王家の血筋的にはまだ小さいらしいの。162センチの背丈で完成してしまった私には、信じがたい世界だ。

「ルー、大きくなったねぇ」
「ごまかさないで。僕も一緒に行く」
「だめだったら」
「サンディ」

 え? え、何、ここで愛称で呼んでくるの? くそラッセルとは違う、プレイボーイの血を感じる!

「今日、僕の誕生日なの、知ってるよね。プレゼント、欲しいな」
「……」
「一回だけ。ね、サンドラ様。お願い」

 首を傾げると、淡い金髪がふわふわと揺れる。あざとい。うちの子、あざと可愛い……。


 私は折れた。


 なんだ、何なのだ。ここの王族はおねだりがうますぎないか。いつも私は、こいつらの掌の上だ。

 しかし、その日は私はルーファスを買い物に連れて行かなかった。行かなかったというか、行けなかった。
 何しろ、ルーファスの服は王子仕様なので、キラキラしすぎて市井で浮くこと間違いなしなのだ。
 だから私は、その日は、王都で、ルーファスが着るお忍び用の服を買ってくるに留めた。

 翌日の昼ごはんの後、私はルーファスをつれて、王宮の階段を上に上がっていく。

「どこに行くの?」
「し! 静かに」

 防音魔法は使ってないので、静かにして欲しい。

 私の精霊友達の魔法は基本的に、彼女たちが大好きな私や自然を対象にしたものしか長く使えない。つまり、ルーファス単体に、精霊友達の魔法をかけることはできない。
 そこで、私とルーファスは、手を繋ぎながら階段を登っていた。私と接触することで、光花ちゃんが私にかけている透明化の魔法が、ルーファスにも及ぶのだ。

 歩いて歩いて、ようやく目的の場所に辿り着く。
 王宮内部のとある塔の屋上だった。

「ルーファスがいるから、箒を持ってきたのよ」
「意味が分からないし嫌な予感がする」
「じゃあやめとく?」
「……」

 ぎゅっと手を握ってきたので、止める気はないのだろう。
 仕方がないと諦めた私は、箒にまたがった。

「ほら、後ろに乗って」
「え? いや、まさか」
「箒に乗ったら、このベルトで私とルーを固定して。ルーは私に触ってないと軽量化の魔法が解けるから、落ちるわよ」
「…………」
「ルー?」

 ルーファスは躊躇いつつも、箒にまたがった後、言われたとおりに私たちの体をベルトで固定した。そして、おずおずと、私の腰に腕を回す。よし、これで魔法が解けて落下することはないだろう。

「行くわよー」
「うわっ、わ、わっ、飛んでるとんでる!!」
「ちょっと、王宮から離れるまで声を落として!」

 こうして、光花ちゃんの透明化魔法、闇花ちゃんの軽量化魔法、風花ちゃんの浮遊魔法をかけられた私達は、優雅に空の旅を始めた。
 いや、優雅だと思っているのは私だけかもしれない。
 ルーファスは、私の腰周りをこれ以上ないくらい強く抱きしめながら、緊張しているのだろう、体を強ばらせていた。

「ルー、この高度ならもう喋っても大丈夫よ」
「なんで、こんなルートを」
「こんなルートじゃないと、結界に引っかかるのよ」
「結界?」

 この国には、宮廷魔術師達がいる。
 彼らは王宮の防衛も担っていて、王宮に結界を張って、勝手に出入りができないようにしているのだ。
 ただし、上空からやってくる敵はあまりに少ないため、省エネの観点から、王宮上空は結界が張られていない。
 雨が地面に届いてくれないと、庭園の草木も困るしね。

「なんて杜撰な……」
「んー、そう? 効率的だと思うけど」
「現に、こんな簡単に行き来されてる」
「私みたいなのは、いざとなったら結界を破壊できるからあんまり意味ないのよ」

 空の旅はいつも楽しい。私はいつになく上機嫌だ。
 憮然としていたルーファスは、私の笑顔を見て、「サンドラ様には敵わない」とポツリと呟いて、頬を緩めた。

 うんうん、固いことを考えるより、空の旅を楽しむのが正解だよ。
 私に引きずられなさい。

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