罠にはまって仮の側妃になったエルフです。王宮で何故かズタボロの孫(王子)を拾いました。

4ー2 ドヤ顔のルーファス



 ルーファス親子をうちに引き取ってから数年、うちの子は増えた。

 ラッセルと私の子? 冗談じゃない。

 似たような行き倒れっ子を拾いに拾って、結局、20人近くいるリチャードの子供のうち、半分以上が毎日うちで朝昼晩のご飯を食べることとなってしまったのだ。


 そりゃまあそうだろう。
 紫水晶を懐に入れていたところで、毒が入っている食事を口にすれば、人間なんてイチコロだ。
 もちろん、高位貴族の側妃やその子には、毒味役がついているから、本人達が即効性の毒を口にすることは少ないけれども、遅効性の毒や、毒性が低くて毒味役では検出できないような毒を使われ、体の負担は蓄積していく。
 側妃はともかく、そんな環境では、子供達は食が段々と細くなり、さらに不健康になっていく。
 だから、段々と行き倒れたり、庭のベンチでくったりとして寝ているので、仕方なく私やルーファスが、次々と捕獲することとなってしまったのだ。


「ルーファスばっかりこんな美味しいものを食べてたなんてずるい」

 集まってきた……というか、集めてきた王女王子達は、全員がルーファスのように死亡寸前だった訳ではないので、最初は私の料理を口にすることもなく、警戒した様子で私達を見ていた。
 けれども、艶々と健康になったルーファスが、お腹を空かせた自分達の前で、美味しそうにオムライスやグラタンを頬張っているのだ。そして、食卓に座らされた自分達の前にも、同じ料理がある。食卓の上をくるくる回っている木の精霊の森花(フォリファ)ちゃんが、『毒は入ってないよ、美味しいよ』と、にっこり笑顔で保証してくれる。あるときは鶏肉のガーリックソテー、あるときはお肉とお野菜たっぷりのポトフ……。

 結局、全員が、うちに来たその日から即、白旗を揚げた。
 子供達は、恐る恐る一口食べた後、目を丸くしてがっつくように食事を始める。そして最後に、揃えたように、ずるいずるいとルーファスを責めるのだ。なんでだ?
 ルーファスは、何故かドヤ顔で喜んでいるようだったので、まあいいけれども……何故お前が自慢げにする?

「家庭料理でこんなに喜んでくれるなら本望だよ」

 買い出しは大変になってしまったけれども、こんなに美味しそうに食べてくれるのだから、頑張り甲斐もあるというものだ。


「サンディはどうやって食材を手に入れてるの?」

 子供達は、私のことを、サンディとか、ドラちゃんとか、ドラねーちゃんとか呼ぶ。私が好きに呼んでいいよと言ったので、そのまま好き勝手に呼んでいるようだ。
 今でも私のことをサンドラ様呼ぶのは、ルーファスくらいだ。
 なお、母親のフリーダちゃんは、私のことをお姉様と呼んでいる。アリエルちゃんと似たものを感じる。

「野菜はそこで作ってるでしょ」

 後宮の庭に勝手に作った小さな畑を指差すと、子供達は文句を言い出した。

「あれってカモフラージュの畑でしょ?」
「ドラちゃん、あんなところに畑を作ったら、翌日には毒まみれだよぉ」
「不用心! 不用心!」

 こら、息をするように毒まみれとか考えるな。何て不健康な思考回路。

「あの畑は、森花(フォリファ)ちゃんの畑だから。普通の何倍も早い速度で育つし、毒が撒かれたら、森花ちゃんや水花ちゃんには分かるからね」

 植物の気配に敏感な森花(フォリファ)ちゃんは、植物毒や細菌毒にはすぐ気が付いてくれる。
 ただし、森花(フォリファ)ちゃんは、水に混入した毒には気が付きにくい。
 なので、撒かれた水や、食卓に上がった飲み物をチェックするのは、水花(リューファ)ちゃんの仕事だ。

「それに、毒なんか撒かれる前に、火花(レイファ)ちゃんと雷花(エレファ)ちゃんが不審者を近づけたりしないから大丈夫よ」

 畑の前でくるくる回っている精霊達を見て、子供達は「ほほー」と頷いたり、安心したりしている。

「サンディ、じゃあ、お肉は?」
「お肉! お肉!」

 あー、お肉ね。お肉、お肉。

「私が食肉市場まで、毎日買いに行っています」
「ええ!?」
「ドラちゃん、王宮の外に出られるの!?」

 そう、私は毎日、王宮の外に買い出しに出かけている。
 光花ちゃんと風花ちゃんと闇花ちゃんの力を借りて、こっそりお出かけしているのだ。

「よいか、皆の者。今後も美味しいご飯が食べたかったら、このことは我々だけの秘密にするのだぞ。我々、4人だけの秘密だ。よいな?」

 真剣ぶった私のふざけた発言に、その場にいた4人の子供達は、興奮したように、ぶんぶんと頭を縦に振っていた。どうやら、私達だけの秘密、というのが良かったらしい。
 あんまり嬉しそうで可愛かったので、「殿下、賄賂です」と言いながら、おやつに作ったクッキーを差し出しておいた。4人は、「うむ、苦しゅうない」と、私の真似をしながら、くすくす笑ってクッキーを食べていた。

 なお、当然ではあるけれども、クッキーを焼いたことは匂いで他の子供達にもすぐにバレた。結局、うちに来る子供達は全員、大騒ぎしながら、クッキーを口いっぱいに頬張っていた。
 でも、賄賂組は怒ることもなく、なんだか幸せそうな顔をしていたから、まあいいのかな、とも思う。


< 9 / 20 >

この作品をシェア

pagetop