八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「ほい、これあげる」

 安斎さんが広げた手のひらには、丸い包み紙が乗っていた。
 五百円玉くらいの大きさで、金色をしている。

「なに?」

 警戒心をあらわにすると、矢野さんが説明し始めた。

「これは魔法のシャボンと呼ばれるものです。好きな人に食べさせるのです。口にした者は、たちまち恋に落ちるでしょう〜」

 スチャッとメガネを押し上げて、迫真の演技をしている。

 手にとってみたけど、どう見てもただのチョコレートだ。

 魔法は憧れるけど、信じてはいない。
 きっと、落ち込んでいるわたしを元気づけてくれたのだろう。

「ありがとう。仲直りできるように、渡してみるよ」

 昼休みが終わるチャイムがなった。
 先に戻ろうとする後ろから、矢野さんのおだやかな呼びかけが聞こえる。

「くれぐれも、片想いの相手以外には食べさせてはいけませんよ〜」

 はーいと手をひらひらして、わたしは教室へ向かった。


「あー、疲れたぁ」

 五限目の授業が終わり、まわりがざわつき始める。

 机の中に隠していた金の玉を取り出して、じっと眺めた。
 ほんのり甘い匂いはするけど、ほんとにチョコレートなのかな。

 あの二人が関わると、なんでも怪しく見えてくる。

「お、なんだそれー?」
< 107 / 160 >

この作品をシェア

pagetop