八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 じりじりと近づいてくるから、反射的に遠ざかる。
 ほっぺキスのことがあるから、体が警戒しているのかも。

 壁に追いやられて、逃げ場を失った。
 琥珀さんのキレイな顔が、ぐっと迫ってきて。

「アレ、どこで手に入れたの?」

「えっと、なんのことだか……」

 緊張で動けない。

 アレって、チョコレートのこと?
 ただのお酒入りボンボンショコラじゃなかったの?

 安斎さんと矢野さんの名前を出さない方がいい気がして、わたしは口をくっつけた。

「まあ、いいや。なにしても、話してくれないだろうし」

 あきらめた口調で、琥珀さんがつぶやく。
 壁に置かれていた手が下ろされる。

 よかった。やっと解放される。
 そう思ったのに、わたしをじっと見つめながら、なにか考えているみたい。

 いいことを思いついた顔をして、琥珀さんがフッと笑った。

「俺、知ってるんだよねぇ。アオイくんのヒミツ」

 あごをクイっと持ち上げて、そらした目が合うように仕向けられる。

 わたしの……ヒミツ?
 それって、まさか……。

「もう椿は知ってるのかな。藍は知らないよね」

 優しい目が細くなって、背筋がゾクッとする。

 琥珀さんには、すべてお見通しだ。
 いつから? お風呂でのぼせて運んでくれたときには、もう?

 耳の近くで、甘い声が毒をはく。

「みんなにバラされたくなかったら、俺の言うこと、聞いてね」

 ドクドクと心臓が早い。
 こんなにも不吉な音は、初めて知った。
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