八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 ぐつぐつハンバーグを煮込んでいる横で、椿くんがじっとこっちを見ている。落ち着かない。

 そろそろいいかな?

 ハンバーグを少し割って、中身の色を確認。火は通っているから、あとは味だけ。

 箸を口へ運ぼうとしたとき、手がうばわれた。顔のすぐ横で、椿くんがパクリとハンバーグを食べる。

「……うまい」

 カァーッと頬が熱くなって、動けない。

 まだ、味見していないのに。この箸を使ったら、間接キスになっちゃう。

 どうしようと困っていたら、小皿に残っているハンバーグを箸でつかんで、はいと渡された。

「えっと……」

「食わないの?」

 断るのも変だよね。

 小さくあけた口の中に、デミグラスソースの味が広がる。

「おいひい」

 満足そうに笑う椿くんを見て、余計にドキドキした。
 気にしてるのは、わたしだけなのかな。

 でも、嫌いだったら、こんなことしないよね?

 落ち着かせようと、呼吸を整えながら時計を見る。いつの間にか、午後五時を過ぎていた。

「藍くん、まだ帰って来ないね。琥珀さんも、遅くなるのかな?」

 変に意識しないように。

 ブロッコリーや人参のソテーを盛り付けて、あとはポテトを揚げるだけ。
 できたての方がおいしいから、二人が帰って来る頃を見計らって作ろう。

「珀と藍なら、今日帰ってこないけど」
< 96 / 160 >

この作品をシェア

pagetop