華夏の煌き
 ますます隆明に信奉していく忠弘だった。

 帰宅して蒼樹から借りた着物を脱ぐと、星羅はまるで夢からさめたような気がした。

「どうして胸が苦しくなったのかしら」

 親ほど年の離れた隆明のことを思うと、やはり胸が苦しい気がする。そして早く軍師省に訪れてほしいと願うようになるのだった。



63 胡晶鈴の娘

 王太子の私的な宴の後、曹隆明と軍師見習いたちはより親しみを覚えていく。公務のため、訪れる頻度は少ないがいつの間にか一緒に話し合うことも増えている。軍師家系の郭蒼樹でも知りえない過去の戦争の策を、隆明はよく熟知していた。さらに誤って伝えられ史実になってしまったことも訂正してくれた。

「では殿下、その戦の功労者は別のものだったということですか?」
「そういうことだ。そのほうが民を統制するのに都合が良かったのだろう」
「あー、なんだか知らなくてよかったことかもしれないなあ」
「いや。真実は突き詰めようがないから知っておくほうがいいだろう」
「自分の策が後年まったく真逆の評価になるかもしれないね」

 軍師省は見習いであろうが、助手や教官であろうが軍師省は熱血な機関だった。

「で、この政策について星雷はどう思う?」

 徐忠弘に聞かれて、星羅はとっさに答えられなかった。

「あ、の、ごめん。何も思いつかなかった」
「調子でも悪いのか?」

 最近、郭蒼樹は星羅をよく心配するような発言をする。

「少し休憩をしたほうが良いだろう。そのほうが身体も頭もよく働く。高祖もよくうたた寝をしたようだ」

 隆明が優しいまなざしを星羅に向ける。

「じゃ、俺、茶でも淹れて来るよ」

 身軽な忠弘はさっと部屋を出て、茶を淹れに行った。隆明は上座に座り、星羅と蒼樹にも勧めた。狭い部屋では隆明の息遣いを感じることができる。忠弘がいないと部屋は静かで、星羅は自分の動悸の音が聞こえてしまうのではないかと心配した。
 休憩してまた戦略の考察と議論を交わした後、隆明は立ち上がった。

「では、また」
「あ、そこまでお送りいたします」

 星羅は軍師省の外まで送ろうと立ち上がる。

「ん」

 もちろんこの丁重な扱いが当たり前の隆明は遠慮することはない。廊下に出て、隆明に何事もないように星羅はあたりを見ながら先を歩く。少しでも長く一緒にいたいと思っているせいか歩みが遅かった。

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