華夏の煌き
 青ざめて沈痛な顔をする慶明に、隆明も顔から笑みが消える。官女たちに下がるようにつたえ、広い部屋はがらんどうになったような静けさをまとう。

「軍師見習いのものとは、朱星雷でしょうか」
「よく知っておるな」

 隆明は驚いた顔を見せる。更に驚かせることになるだろうと慶明はひと息つく。

「胡晶鈴の娘です」
「!?」

 慶明はますます声を潜めて、隆明のそばに寄る。

「父親はあなた様です」
「なっ! なんと申した!?」
「朱星雷、いや、星羅はあなたさまと晶鈴の娘なのです」

 いきなり突き付けられた真実に隆明は、固まったまま空を見る。ほんのわずかな時間ですべて理解した彼は「そういうことだったのか」と肩を落とした。
 占い師の胡晶鈴が能力をなくし、都を追われた原因は懐妊にあったのだ。

「それで、晶鈴は今どこでどうしているのだ」
「それは……」

 胡晶鈴が、人違いで他国に連れ去られたことから、星羅の現状までの話を聞かせた。隆明は、慶明の話を一言も漏らさぬように聞き入っている。

「晶鈴……」
「彼女はきっと無事です。きっといつか……」
「ん、よい。しかし何も知らなかったことが残念でならぬ……」
「殿下……」

 感傷的になっているところに胸を痛めながら慶明はさらに進言する。

「決して決して父と名乗ることはおやめください。継承問題と星羅の命にかかわりますので。星羅にも父が誰か知らせていません」

 隆明は辛いのか嬉しいのか複雑な笑いを見せる。晶鈴の行方は分からないが、二人の結実ともいえる娘、星羅が身近にいるのだ。

「わかってる。聞いていてよかった。我が娘とは。危うく間違いを犯すところだったかもしれぬな」

 あまりにも晶鈴に似ている星羅を、青年だと思っていても隆明は求めてしまったかもしれないと思っていた。その言葉を聞き、慶明はほっと胸をなでおろす。

「これで軍師省に行く楽しみが、また違ったものになるな」
「ええ、殿下。星羅は素晴らしい娘です。きっと国を支えるでしょう」

 星羅を女性として愛してしまう前に、娘とわかり隆明も優しい気持ちに戻った。彼女を成長を見守り、じっと玉座で胡晶鈴を待ち続けるのだ。
 隆明は落ち着きを取り戻したが、星羅の気持ちには配慮がなかった。慶明も同様に、星羅が実の父である曹隆明を男として愛し始めていることに気づいていない。

 
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