華夏の煌き
「あら。慶明と才女である奥方のお子なら申し分ないでしょう」
「どうだかな」

 王女たちや大臣の娘たちの教育係である女傅と慶明は結婚した。

「今年はおめでたいことが多いわ」

 心からそう思っているようなそぶりに、慶明は苦い思いを感じる。自分が結婚するかもと、話をした時も屈託なくおめでとうと言われた。幼いときから長く過ごしてきた晶鈴に特別な気持ちを抱いてきた慶明にとって、彼女のあっさりとした祝いの言葉は胸を痛めた。
結婚話が来たとき、家柄と地位の安定している女傅は慶明の野心にとっては魅力的だった。お互いに会ったことはなく、女傅の父親が将来有望な慶明を気に入って持ってきた話だった。女傅は教養はもちろん高く、性格もおとなしくて従順だ。お互いに仕事に誇りを持ち穏やかな生活を築いている。この結婚を失敗だと思うことは一生ないだろうと慶明は感じている。
しかし、晶鈴と結婚したらどうであったのか、それをついつい考えてしまう。彼女にプロポーズする勇気はなかった。全くその気がないのがわかっていたし、友人としての位置さえなくすのが怖かったからだ。

 太極府の者は生涯を独身で過ごすものが大半だった。特に結婚を禁じられているわけではないのに独りでいる。晶鈴を含む彼らは自分の血統を残したいと思わないものらしい。それゆえに『観る者』なのかもしれない。

「晶鈴は結婚したくないのか?」
「さあ。あまり気にしたことがないわね。今のままで何も困らないし」
「求婚されたらどうする?」
「占ってみてから考えるわ」
「そうか」

 明るく気さくな晶鈴は、慶明の野心をフラットなものに変えてしまう。自分の意志を変えてしまいそうな影響力の強さも、慶明が彼女を得たいと思う気持ちにためらいを見せるのだった。

 慶明には目標がある。流行り病で子供たち、つまり慶明の兄妹を次々と亡くし心を病んでしまった母を救うことだった。一時的に感情を回復させることもできたが持続はしなかったし、子を亡くしたことだけを忘れさせることも難しかった。枕のような布切れの塊をいつも二つ抱いて歌を歌っている。父はそんな母を疎ましく思い、家に寄りつかない。

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