華夏の煌き
 気さくに言われても、王子を呼び捨てにするなど死罪も免れぬ不敬罪に問われると思い、晶鈴はうつむく。

「晶鈴はいくつになる?」
「11です」
「ふむ。私は12だ。隆兄と呼べ。私は晶妹と呼ぶことにする。それならどうだ」
「そ、それなら。あのほかの人がいなければ、そう呼びます」

 妥協するような気持で晶鈴は頷いた。小石を拾いあげていると遠くから女官の声が聞こえた。

「若君ー。どこでいらっしゃいますかあー」
「やれやれ、ここで見つかると面倒だ。じゃあ、またな晶妹」

 隆明はぱっと衣を翻し、茂みの中に入っていった。晶鈴はほっと胸をなでおろす。

「はあ、緊張した。あとで老師に若さまのことを聞いてみようかしら」

 まだ占うことを許可されていないので、そのことは伏せて隆明のことを尋ねてみようと太極府へと戻った。

2 医局の少年 

 中央の朝廷から東に太極府は位置する。晶鈴は道の途中にある、医局の周りの様々な薬草を眺めながら歩く。

「医術と占術ってどこか似てるわね」

 ぶらぶらしていると、かすかに叱咤されている声が聞こえた。声のほうにちらっと視線を向けると、軽装で裸足の少年が、年配の薬師に怒鳴られているところだった。

「あら、新しい見習いかしら」
 初めて見る顔だった。がみがみ叱りつける薬師に少年は頭を垂れてはいるが、無表情だ。しばらく叱って気が済んだのか薬師は、茶色い衣の裾を翻し、去っていった。少年は立ち去ったのを見計らって、ぱっと晶鈴のほうへ走ってきた。

「こんにちは」
「あ、やあ」

 晶鈴に気づき少年は声を返す。

「大丈夫だった?」
「なにが?」
「叱られてたでしょ? 何か失敗でもしたの?」
「ああ、食える草が生えてたからとって食っただけだ」
「まあっ。それは叱られるわね」
「らしいな。生えてる本数まで数えて管理してるってぎゃあぎゃあ言われたよ。今日来たんだから知らねえよ」

 叱られているときは無表情だったが、目の前の彼は表情豊かで、率直な物言いをし飾り気がない。

「そうなのね。わたしは胡晶鈴。占い師見習いよ。あなたは薬師見習い?」
「俺は陸慶明。昨日試験に合格して、今日ついたとこだ」
「へえ。じゃあ、まだ見習いの宿舎は行ってないの?」
「これから行こうって矢先にさっきのあれさ」
「わたしが案内してあげるわ」
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