華夏の煌き
 李華は姉に憤り、身の上を嘆いたが、美しい太子に触れられることによって幸せを感じられた。姉の頼みごとを聞いて、生まれてから初めて良かったと思う。甘い香が焚かれ、若く美しい太子夫婦を包み込んだ。


12 失われた能力

 いまだ明けきらぬ薄暗い空の下、晶鈴はすでに目が覚めて日の出を待った。冷たい風がそろそろ秋なのだと知らせるが、まだまだ着物を替える必要はないだろう。毎朝、晶鈴は日の出より早く起きて、出てくる一番の光を浴びている。なぜだか理由はないが物心ついたときからの習慣だった。
実は太極府にいる占術師たちもみなそれぞれ何かしらの習慣がある。太極府の長である陳賢路は決まった時刻にどんな場所にいても、どんな時でも北極星のほうを向く。ほかにも満月の日は一切食事をしない者、雨が降ると必ず浴びに行くものなどがあった。奇行に見えるような行為を行うものは、みな太極府のものだとさえ思われる。この行為は占術の精度を上げるための儀式かもしれなかった。
 日の光が晶鈴を照らし始め、彼女は目を細める。

「今日も一日が始まるのね」

 納得して小屋にはいろうとすると、茂みがガサガサと鳴った。猫でもいるのだろうかと近寄るとぬっと大きな影が動いた。

「誰?」
「私だ」
「あ……」

 太子の隆明だった。髪も結い上げられておらず寝間着のままだが、その格好にも風情がある。

「どうして、こんな時間に……」

 晶鈴にはまったくわからなかった。彼が婚礼を終えて3ヵ月になる。王太子妃の懐妊のニュースに宮中は明るい喜びで満ちている。それなのにこの暗い表情は何があったのだろうか。 数か月ぶりに会う隆明は少しやつれているようだ。

「会いたかった……」
「お立場をもっと考えないと……」
「よく考えたし、我慢もした。もう一生会えぬかと思った」
「そんな……」

 隆明の言うことはあながち大げさではない。王や王妃、太子など王族の中でも身分の高いものに会うためには、高い身分が必要だった。たとえ、占術を所望され太極府から派遣されても、晶鈴では無理だ。太極府長の陳賢路と次長の2名ほどだ。晶鈴が次長になるためには、相当の年数を要するだろう。

「王太子妃さまはどんな方なのです? お美しいと聞いてます。もう来年にはお子様も生まれますし」
「そうだな。王太子妃は美しいと思う……」

< 23 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop