アンドロイド・ニューワールドⅡ
私が碧衣さんのマンションを訪ねたとき。

碧衣さんは、珍しい格好をしていました。

これまで見たことがありません。

しかし、本で得た知識で知っています。

この服装は、浴衣、と言うのです。

実物は、このような見た目をしているのですね。

とても興味深いです。

興味深いですが…。

「…あまり、機能的であるとは言えない格好ですね」

と、私は言いました。

星屑学園女子生徒の制服…スカート…よりも、機能性に劣っていると言えます。

何せ、この浴衣という衣装。

帯という、幅の広い縄のような布で、腰の辺りをガッチリと締め。

更に、足元にも布が折り重なって、いかにも歩きにくそうです。

とても、大股で歩くことは出来ませんね。

飛んだり跳ねたり走ったり羽ばたいたりするには、かなり不便であると言えます。

足の自由は、ちゃんと利いた方が良いのではないかと思います。

しかし碧衣さんは、この動きにくい服装に、少しも不満を抱いている様子はありません。

「確かに、機能性は皆無ですけど」

と、碧衣さんは言いました。

本人も認めているようです。

「では、何故わざわざそのような服装をしているのですか?」

「それは、勿論人間に溶け込む為です。『人間交流プログラム』の一環じゃないですか」

と、碧衣さんは言いました。

成程、理解しました。

確かに機能性のある服装とは言えませんが、しかしこの服装は、人間が開発し、今でも広く普及している着物です。

ならば、人間の文化、暮らしを知り、人間の感情を学習する為に、『人間交流プログラム』を遂行する、私達『新世界アンドロイド』は。

積極的に、人間固有の服装を試してみるべきである、と言えるかもしれません。

さすが、私より先にプログラムを開始した碧衣さんです。

『人間交流プログラム』に対する意気込みが、私より上ですね。

そればかりは、認めざるを得ません。

紺奈局長、ひいては第2局のアンドロイド教育の賜物なのかもしれません。

「それに、動きにくいですけど、これを着ていると…何処となく、風情を感じませんか?」

と、碧衣さんは聞きました。

風情、ですか。

人間の心を持たない私には、理解し難いですね。

「残念ですが、何も感じません」

「まぁ、僕も感じてないんですけど」

と、碧衣さんは言いました。

そうなんですか。素直ですね。

「では、何故そんな格好をしているのですか?」

「ふふふ。よくぞ聞いてくれました」

と、碧衣さんは言いました。

この顔は、人間で言うところの、ドヤ顔です。

碧衣さんは器用ですね。こんな表情が出来て。

「何でしょうか」

「これですよ、これ」

と、碧衣さんは言いました。

同時に、一枚のチラシをこちらに見せてくれました。

そこには。

「夏の風物詩…花火大会、ですか」

「えぇ、それです」

と、碧衣さんは笑顔で言いました。
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