アンドロイド・ニューワールドⅡ
「ツリーは知らないのに、クリスマスは知ってるんだ」

「はい。クリスマスというのは、合法的に甘い物を食べまくることが出来る、人間界において最高のイベントなのだと、久露花局長が言っていました」

「うん…。間違ってはないのかもしれないけど、でもクリスマスをそういう捉え方するのは、どうかと思うよ」

と、奏さんは言いました。

今度定期連絡のとき、久露花局長に伝えておきます。

「クリスマスって言ったら…もっとこう…宗教上の、神聖な日で…」

「ケーキとシュトーレンとジンジャークッキーと、ミンスパイとクグロフとブッシュ・ド・ノエルを食べられる、素晴らしい日だと局長は言っていました」

「…間違ってはないんだろうけど、物凄くスイーツに寄りまくったクリスマス知識だね。そりゃツリーを知らない訳だよ」

と、奏さんは呟きました。

それも、久露花局長に伝えておきます。

「じゃあ、クリスマス会とかもしたことないの?」

と、奏さんは尋ねました。

クリスマス会?

「ありませんね。クリスマスのお菓子食べ放題パーティーなら、毎年開催されていますが」

「…それはそれで、ある種のクリスマス会だね…」

と、奏さんは呟きました。

「ちなみに、第1局では、クリスマスには何もしないのですか?」

と、私は琥珀さんに尋ねました。

もしかして第1局でも、クリスマスのお菓子食べ放題パーティーを開催して、

「はい、何もしていません。クリスマスという宗教行事も初耳です」

と、琥珀さんは答えました。

成程、食べ放題パーティーは、第4局でのみ行われているようです。

毎年行われるあのパーティーは、完全に久露花局長の趣味と方針によってのみ、開催されているのだと分かりました。

「奏さんは、クリスマス会とやらのご経験が?」

「うちの施設で、毎年やってるよ」

と、奏さんは答えました。

施設と言うと、奏さんが暮らしている児童養護施設のことですね。

「では奏さんは、毎年クリスマスを堪能しているのですね」

「いや、クリスマス会に参加するのは、小学生以下の子供だけだから。中学生以上は、何もないよ」

と、奏さんは言いました。

そうなのですか。

何もないとなると、それはそれで寂しいような気がしなくもないですね。

「ちなみに、そのクリスマス会では、何をしているのですか?」

「え?ケーキを食べたり、ツリーを飾ったり…プレゼント交換したり…。参加はしてないけど、手伝いは毎年させられるから、よく知ってるよ」

と、奏さんは言いました。

参加はしないのに、手伝いはさせられるのですか。

それは切ないですね。

「嫌ではないのですか?クリスマス会の手伝い」

「人手が足りてないから、仕方ないよ。クリスマスに予定でもあれば、逃げられるんだけど。俺は毎年、クリぼっちだから。毎年お手伝い要員にされてるよ」

と、奏さんは自嘲気味に笑いながら言いました。

…クリぼっちとは、何のことでしょう。

…栗ぼっち?

それは、松ぼっくりの亜種でしょうか。

「そうですか…。奏先輩、毎年松ぼっくりのような扱いを受けて…」

「気の毒ですね、奏さん。元気を出してください」

「え、ちょ。何の話?」

「強く生きてください。松ぼっくりだとしても」

「…ちょっと何言ってんのか分かんない」

と、奏さんは言いました。

きっと、あまりに切ないことなので、口にするのも憚られるのでしょうね。

それなら、深くは聞かないのが友情というものです。
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