アンドロイド・ニューワールドⅡ
「え、おめでとうって…何が?」

と、奏さんは聞きました。

最早、何が起きたのかを、しつこく奏さんに尋ねる必要はありません。

私に出来ることは、一つだけです。

「奏さん、来年から叔母さんのお家に行かれるそうですね」

と、私は言いました。

すると、奏さんはぎょっとして、目を見開きました。

「な…んで、それを…」

と、奏さんは聞きました。

何でそれを知っているのか、と聞きたいのでしょうね。

その答えは簡単です。

「実は昨日、奏さんのいる施設に侵入しました」

「は!?」

「そこで、第五匍匐前進状態で、奏さんが電話をしているところを、盗み聞きしていました」

「な、何やってるの瑠璃華さん!?」

と、奏さんは大声をあげました。

何を…と言われましても。

空き巣です。

あのようなことをしなければ良かったと、心底悔やんでいます。

ですが、いずれ知らされることでしたから。

少しでも早めに知って…そして。

人間で言うところの、心の準備というものを、しておいた方が良いかと思うのです。

「そこで、奏さんが叔母夫妻のもとに引き取られることを聞きました」

「そ、そんな…。い、いつの間にそんな…」

「済みません。奏さんに何があったのか知りたくて、つい」

「つ、ついって…」

「そこで知りました。奏さん、叔母さんと一緒に暮らすよう、誘われているそうですね」

と、私は言いました。

「…」

と、奏さんは唇を引き結んで、黙り込みました。

「電話越しでしか聞いていませんが、奏さんとのお話から察するに、とても良い方であるという印象を受けました」

と、私は言いました。

奏さんの周囲にいる大抵の人間が、奏さんを邪魔者扱いしたり、厄介者扱いすることが多くて、うんざりしますが。

しかし奏さんの叔母さんは、本当に奏さんを迎え入れることを望んでいるように聞こえました。

きっと、奏さんのことを大切にしてくださるでしょう。

だから、きっと。

奏さんは、叔母夫妻の家に行くのが、一番良いのです。

その結果転校して、私と会うことがなくなったとしても。

奏さんの将来を思えば、きっと、私は笑顔で送り出すべきなのです。
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