望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
 レイモンドは口を閉じ、唾を飲み込んだ。その音が異様に大きく聞こえる。弟にここまで言わせる理由はなんなのか。

「もしかして兄さん。僕がそんなことを言ったから、惜しくなりましたか?」
 人間の姿であれば、クククと引きつった笑いを浮かべていたことだろう。

「ばかばかしい」

「兄さん。義姉さんをとられたくなければ、子を為せばいいだけですよ。義姉さんとの間に」

 ふん、と言ってレイモンドが立ち上がったため、アドニスは危うく落ちそうになった。一回転して地面に着地する。

「僕、まだ兄さんの話を聞いていないですよ?」

 レイモンドは歩きかけたが、その一歩で留めた。チロチロと横を流れる水の音が異様に大きく聞こえる。大きく息を吐き、再び腰を落ち着けた。

「それでは話しにくいだろう。ここに来い」
 レイモンドは自分の太腿の上をポンポンと叩いた。黒豹は再びその上に頭を預け、身体をくるりと丸めた。
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