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再び、来た山道を引き返して駅に向かう。


下りだからか、行きよりも早く駅に着いた。


「あのさ。動物園行かないか?」



駅に着くと、蒼君はそう提案して来る。


「動物園?!」


こんな時に、何言ってるの?



「だって闇雲に逃げても仕方ないし。
ここから電車で30分くらいの所に、大きな動物園があるんだよ」


そう言われ、ああ、あそこの動物園かな?と思い当たる。



「なんで、動物園?」


「昔、俺が就職して、お盆に未希に会いに行った時。
動物園行きたいって未希が言っただろ?」


「え、うん」


言われる迄、忘れていたけど。


「ほら、暑いから俺嫌だってそれ断って」


そういえば、後、お盆で混んでそうだから嫌だな、って事も蒼君言っていたな。


「なんで、今さら?」


なんだか、最後の思い出作りみたいで、嫌だ。


「ほら?もっと未希と一緒に色々な所に行けば良かったな、って、後悔したくないから」


「別に、この先動物園なんかいつでも行けるよね?」


「いや。顔写真とか晒されて、指名手配とかされたら無理だろ?」


そう言われると、そうか。



「こうやって、まだ普通に外を歩ける時間は限られてるんだから、行こう」


蒼君は、私の手を繋ぐというより、強く握る。


「分かった」


なんだか、胸に妙なわだかまりはあるが、頷いた。

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